【背景・ねらい】

   沖ノ鳥島は東京都小笠原村に所属し、東京都庁からおよそ1700km離れた洋上に存在する、絶海の孤島です(図1)。大島事業所では、この遠く離れた島における漁業の可能性や、伊豆諸島海域へ至るまでの水産資源上の連続性を把握するため、様々な調査を実施しています。今回は、沖ノ鳥島周辺における低次生態系解明のために、多層曳きが可能な大型ネット(IONESS、図2)を用いた調査を行いましたので、報告をいたします。

 

【成果の内容・特徴】

 ① 平成26年の調査では、6月17日の夜間、6月18日の昼間にそれぞれ1回ずつ曳網調査を行いました。我々は、IONESSを深度500mまで投下した後、450m、350m、280m、230m、180m、130m、80m、30mの8層を狙って階段曳きを行いました(図3)。この調査により、夜間調査では8目18科690尾の魚類が、昼間調査では8目21科349尾の魚類がそれぞれ採集され、その多くは仔稚魚でした。採集された種類の内訳は、昼夜ともにヨコエソ科、ハダカイワシ科、ギンハダカ科の3科の魚類が全体の80%以上を占めていました(図4)。これらは、大型魚類の餌として重要な役割を果たすものと考えられています。

② 個々の生物に着目すると、有用水産種であるメバチや、奇妙な形態をしたミツマタヤリウオをはじめとした仔魚が採集されました(写真1)。仔魚は成魚とは異なる形態をしているものが多くあります。例えば、メバチの仔魚ではより早く成長するため、大きな口でより大きな餌を食べていると考えられます。また、ミツマタヤリウオの長く飛び出した目は外敵を素早く見つけるためかもしれません。また、マンボウ科仔魚に見られる様なトゲは、浮力を得ると同時に、外敵から身を守っていると考えられます。

③ 層別で比較すると、採集された生物量は昼夜ともに深度130m以浅で生物量が増大し、深度30mの最も浅い層で最大となりました(図5)。図5には、調査当時の植物プランクトン量を示すクロロフィル蛍光値と水温分布を同時に示しています。魚類の生物量は、基礎生産者である植物プランクトン量の分布とは必ずしも一致していませんでした。一方で、水温が高くなるほど、魚類の生物量も増えているようでした。この理由として、仔稚魚は速く成長するために、代謝が活発になる高水温を利用している可能性が考えられます。

  

【成果の活用と反映】

   本調査により、沖ノ鳥島海域はメバチのような有用水産種をはじめとした仔稚魚が生育場として利用していることが明らかとなりました。また、全体の80%以上を占めていた3科の魚類は、カツオ・マグロ類が伊豆諸島を含む日本近海へ来遊してくるまでの重要な餌となっている可能性があります。この様な知見を積み重ねていくことで、東京都海面における資源の管理や有効利用へつなげていきます。

            (舟橋 達宏)

沖ノ鳥島における初期生態調査