【背景・ねらい】

   島の漁業を支えてきたカツオ漁にとって、漁場予測は効率的な操業に不可欠ですが、これまで漁場形成因子とされてきた海面水温、クロロフィルa等の条件が整っているにもかかわらず漁場が形成されない状況も発生しています。そこで、八丈島周辺海域におけるカツオの詳細な行動を把握するため、30秒毎に水温、水深、体温、照度を記録できる電子標識を用い標識放流を実施しました。

 

【成果の内容・特徴】

① 水平移動

 平成27年4~5月に漁業調査指導船「たくなん」により、八丈島沖で釣獲したカツオ444個体に標識(ダートタグ、そのうちの40個体には電子標識)を装着して放流しました(図1)。平成28年の3月末までに40個体が再捕され、そのうち電子標識装着個体は2個体(標識番号No.3897、No.3901)でした。再捕地点は37個体が伊豆諸島南部海域、2個体が東北沖、1個体が高知沖で、今回、西へ移動する個体がいることも明らかになりました(図2)。また、No.3897は放流後北緯31°付近まで南下した後、八丈島付近まで北上、再び南下し、60日後の7月19日に放流地付近に移動したことが分かりました(図3)。同様にNo.3901は放流後、南西方向に南下した後、29日後の6月18日に北上し、青ヶ島付近に移動したことが分かりました(図4)。

 電子標識のデータにより、放流後の詳細な移動状況が明らかになりました。

②   遊泳水温 

 No.3897の遊泳水温は11.9~28.0℃であり、5月は21℃台、6月は23~24℃台、7月は26℃台が最も多く、月が経つごとに水温が高くなっていました(図5)。No.3901の遊泳水温は9.9~25.3℃であり、5月6月共に23~24℃台の割合が多くなっていました(図6)。

③  遊泳水深

 No.3897の遊泳水深は0~537.3 mであり(図5)、No.3901では0~555.4mでした(図6)。この結果から、カツオは常に表層を泳いでいるわけではなく、鉛直移動をしていることが分かりました。

  

【成果の活用と反映】

 今回、電子標識を用いてカツオの詳細な移動状況と遊泳水温・水深を得ることができました。今後は、得られたデータから漁場形成因子を再検討し、より精度の高い漁場予測を行うなど操業支援につなげていきます。

(尾形 梨恵)

八丈島周辺海域におけるカツオ標識放流調査