【背景・ねらい】

 東京湾から遡上する「江戸前アユ」は、多摩川の環境改善のシンボルとして都民の関心も高く、近年では下流域の調査で100万尾を上回る遡上が推定されており、どのくらいのアユが中流域を通過し、上流域に到達しているかといった問い合わせも多くなっています。そこで、①下流域での遡上調査を継続するとともに、②これまで実態が不明であった中流域におけるアユの遡上実態の把握と、③上流への遡上阻害要因の解明、遡上の促進に取り組みました。(図1)

 

【成果の内容・特徴】

①  下流域の遡上数調査

下流域において3月下旬~5月末まで定置網による遡上数調査を行い、平成26~28年は400万尾以上のアユが遡上していると推定されました。(図2)

② 中流域の遡上実態調査

中流域の昭和用水堰において5月下旬~7月末まで定置網による調査を行い、3年間の調査で、おおむね1~3.5万尾のアユが堰を通過していると推定されました(表1)。堰を遡上したアユ20検体について、側線上方横列鱗数と耳石のSr/Ca分析、日齢解析を行ったところ、すべて天然アユと推定されました(図3)。平成27年の推定遡上数について、ブートストラップ法により95%信頼区間を求めたところ、下は3363尾、上は23467尾となり、推定誤差は52.5%となりました。

昭和用水堰の上流の分岐点で、本流、支流(秋川)に定置網を設置しアユがどちらに遡上するのか調査を行いました(図4)。本流、支流の選択は半々で、濁度が影響していると推察されました。

③ 遡上阻害要因の把握と遡上促進の取り組み

平成26年に羽村堰、平成27年には八高線下の魚道等が十分に機能していないことが確認されたため魚道管理者に提言を行い、魚道等の改善につながりました。

昭和用水堰において、堰下に迷入、滞留するアユに対して、新たにコンテナボックスを使用した簡易魚道を開発設置し、アユの一部を遡上させることに成功しました。(図5)

 

【成果の活用と反映】

  3年間の取り組みで、中流域におけるアユの遡上実態や遡上阻害要因について、一定の結果を得ることができました。これらの結果は、下流域の遡上数調査と合わせて、江戸前アユを中・上流で利活用する際の基礎資料となることが期待されます。今後は、実態が不明である上流域におけるアユの動向について、29年度より調査を行い内水面漁業の振興を図ります。

                    (澤崎 昌子)

 


江戸前アユは多摩川をどのくらいのぼっているの?