【背景・ねらい】

 魚類防疫対策として消毒剤による器具の消毒、紫外線による飼育水の殺菌などが行われますが、費用負担が大きく、全てを実施できる養殖業者は多くありません。そのため、未殺菌の河川水や購入種苗に由来した疾病が発生することもあります。なかでもIHNは重篤な疾病で、有効な治療方法がないため、発症した際には換水率を上げる、餌止めをするといった対症療法を行っています。都内では毎年十数件の発生があり(図1)、マス類養殖経営に大きな損害を与えています(図2)。奥多摩さかな養殖センターでは、IHNに対する被害低減対策のひとつとして、1989年からニジマスにおいて選抜育種による抗病系品種の作出を試みています(図3)。

 

【成果の内容・特徴】

①  大型魚に対しても感受性の高かったIHNウイルス(TK8901株)を人為的に感染させ、死亡率の低かった群を親魚まで育成、採卵して次の世代の選抜を行いました。その結果、2014年まで選抜を繰り返した系統では8gサイズでの死亡率が10%以下に低下しました。IHNは魚体が小さいほど死亡率が高いため、1g・2gサイズでは死亡率にややバラつきがありますが、選抜当初と比べると低い水準にあります(図4)。一方、通常ニジマスの死亡率は抗病系と比べて高く、2014年の試験でも2gサイズでは77.5%、8gサイズでは75%でした。センターでは、ニジマスを2g(春稚魚)および10g(秋稚魚)サイズで配付しており、8gサイズでの抗病性が確認されたことから、現段階において、秋稚魚ではIHNに対する被害低減効果が期待できます。

②  2004年より数件の養殖業者へ試験配付を開始し、「IHNに対して通常のニジマスよりも死亡率が低い」と評価する声もあります。一方で、冷水病との混合感染に対する抗病性や、通常ニジマスと体型や成長に差が見られるなどの指摘もあり(図5)、事業化に向けては改善が必要となります。

 

【成果の活用と反映】

  抗病系としての品種の確立を目指して、今後は、TK8901株以外のIHNウイルス株への感染試験や飼育特性の把握を行っていきます。また、選抜8代目まで進んでいることを生かし、抗病性に関わる遺伝子を見つける材料としても期待されています。

抗病性が確認された後は、通常の事業用ニジマスと同様に希望する業者へ配付できる体制を整え、IHNの被害低減に貢献していきます。

(永尾 桃子)

 


※IHN(伝染性造血器壊死症):主にサケマスの仲間がかかる、死亡率の高いウイルス性疾病。


IHN抗病系品種の作出研究