メカジキのひみつ 
回遊経路・生態について

背景・ねらい

 小笠原では、沖縄から導入した「ソデイカ旗流し」漁を改良し、日中、深いところにいるカジキやマグロを対象とした「たて縄漁」が盛んに行われています。近年、水揚量も急増し、生産金額はメカジキだけで3億円を超えるようになりました。これは全水揚金額の約半分です。さらなる発展が望める一方で、漁業者からは、「いつか獲れなくなる日が来るのでは」という不安の声も聞きます。小笠原水産センターでは、メカジキの生態の解明に向けて調査に取り組みました。

 成果の内容・特徴

① 暖水渦の中では、深く潜水し、冷水渦の中では浅く潜水していることがわかりました。海面高度偏差図と        回遊経路を重ね合わせてみると、メカジキは回遊中において、海洋環境の変化(中規模渦の中を通過)により、潜水する深度が変化していることが判明しました。
② 水平移動と垂直移動は合い反します。長期にわたる放流中のデータから、北緯30度以北に北上した場合は、それまでの、鉛直移動に代わって、水平移動の距離が多くなる傾向にありました(図1)。
③ メカジキの持つブレインヒーターの能力は20℃前後です。実際の潜水記録から水温差20℃台が最も多かったことから、メカジキの持つ、眼や脳の保温能力が明らかになっりました(図2)。
④ メカジキは極めて慎重です。深海ハイビジョンカメラに映った映像から、メカジキは、餌に対して慎重に近寄ることが分かりました(図3)。
⑤ 標識放流の結果、小笠原から北上する大回遊系群と、南下しあまり遠くまで行かない小回遊系群の存在が明らかになり、回遊群には2群がある可能性が高いと推定されました。

成果の活用と反映

 漁業効率化のため、「興洋」では海洋観測の際、各水深の水温とともに釣獲数が多い10℃台の水深を無線で操業中の漁船に伝達しています。漁業者は放送を聞いて、針を付ける水深を変えています。また、漁業者による、10kg以下の小型魚の標識放流も40尾に達しました。放流7ヶ月後に、そのうち1尾が小笠原で釣獲されました。     (山口邦久)

垂直移動水平移動

 


図 1 緯度別垂直移動と水平移動距離

 

潜水による温度差

 

マカジキの行動

図3 撮影されたマカジキの行動

 

ヨシキリザメ

図4 撮影されたヨシキリザメの行動