平成21年、江戸前アユの遡上と産卵

 多摩川は、多くの都民に親水空間を提供しています。一般都民の環境保全に対する意識が高まる中、多摩川の天然アユについては特に高い関心が寄せられています。このような状況の中で、毎年春になると東京湾から遡上してくる稚アユの遡上量調査を続けています。江戸前アユの生態と生息環境の現況を把握し、多摩川水系における稚アユ遡上経路の阻害要因を明らかにすることで、改善策の検討に役立てています。

背景・ねらい

昭和50年に10数年ぶりに多摩川を遡上する稚アユが目撃され、前身の水産試験場時代の昭和58年より調布取水堰(可動堰)下左岸200mの地点に定置網を設置し、遡上調査を始めました。平成19年から稚アユ遡上時期に合わせ可動堰を倒すようになったため、従来の場所では遡上数を正確に計数できなくなりました。このため、平成21年は定置網をこれまでより下流のガス橋付近に設置し(図1)、入網率を再調査した後、遡上数を推定しました。また、脂ビレ切除の標識放流と釣り人へのアンケートにより遡上範囲を特定し、秋には産卵状況を調査し、生態や阻害要因の解明に取り組みました

成果の内容・特徴

1)入網率調査:4月23日に定置網下流6kmの左岸から稚アユ4,623尾を標識放流し、翌日より定置網に入った魚から標識アユを探しました。5月1日までに標識アユが249尾再捕され(図2)、入網率が5.4%と推定されました。
2)遡上数調査:3月26日から5月28日まで、土日を除き、定置網で採捕された稚アユの累積採捕数は76,450尾となりました(図3)。この数値を入網率で割ると今期の推定遡上数は142万尾となり、4年連続100万尾を超えたものと推定されました(図4)。
3)遡上範囲:4月上旬と5月後半、脂ビレ切除による標識放流を実施しました。4月23日に下流で実施した入網率調査用と合わせ、標識放流数は計6,508尾でした。昭和用水堰から上流の8区で19尾の報告があるなど、解禁期間中に計37尾の再捕報告が得られました。(図5)。
4)産卵場調査:10月21日に新二子橋上流の早瀬で付着卵を今期初めて確認し、11月上旬から12月中旬にかけて、新多摩川橋下流、東名多摩川橋下流、多摩川五本松公園地先で受精卵・発眼卵がみられました。翌年1月上旬には卵を確認できませんでした(図6)。

成果の活用と反映

4年連続100万尾を超す遡上稚アユが確認されました。このアユ資源を守り育てるため、産卵場造成の取り組みや、魚道の整備について指導・助言していきます。           (千野 力)

定置網 

図1 定置網

 

図2 定置網に入った標識アユの数

   図2 定置網に入った標識アユの数

 

図3 放流数

図3 放流数

図5 区域別、標識アユ再捕数

1区0 , 2区3 , 3区2 , 4区 1
5区0 , 6区0 , 7区8 , 8区19
9区0 ,10区0 ,11区1 ,12区 3

図4 区域別、標識アユ再捕数

       アユの卵

ず6 多摩川漁協の組合員らで耕耘・造成した人工産卵場

で確認された鮎の卵(11月20日)