カギイバラノリ陸上養殖の取り組み (八丈島の郷土料理「ブド」の安定供給に向けて)
【背景・ねらい】
八丈島では、お祝い事や集会の席で食されるブドという郷土料理があります。ブドはカギイバラノリ(写真1)という海藻を煮溶かして、貝や魚のほぐし身などの具を加え固めた料理です(写真2)。カギイバラノリは、春から初夏にかけて島の沿岸に繁茂します。しかし、生える時期が限られていること、また年によって生える量も大きく差があること(図1)から、島内で安定した供給が望まれています。そこで、カギイバラノリ安定供給のための手段の一つとして、養殖技術の開発研究を実施しました。
【成果の内容・特徴】
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室内(フラスコ)での培養
カギイバラノリの生長に適した環境条件(水温、光の強さ、必要とする栄養)を調べたところ、水温18℃から27℃、光強度100μmol/m2/s以上、栄養は硝酸態窒素を培養液500mlあたり25μmol以上与えることで良好に生長することがわかりました(図2)。
また、フラスコ内で継代培養していた藻体を成熟させ、胞子を得ることに成功しました(写真3)。
- 屋外円形水槽での培養
天然藻体を母藻とした屋外水槽での培養を行いました。方法は、エアレーションにより藻体を撹拌しながら培養するフリーリビング培養とし、農業用の遅効性化学肥料(肥料成分が徐々に溶出)を肥料として使用しました。3段階の水槽規模で培養を行いましたが、いずれも14日間という短期間で、2から3倍に増やすことができました(表1)。
しかし、天然海域では7月頃から藻体が減少する(図1)ため、母藻の確保が難しく、また、培養による生長率も低下する傾向が見られました。
- カギイバラノリの成分分析
施肥培養により増やした藻体(培養藻体)と、天然の藻体との主成分を比較しました。結果、培養藻体は天然藻体と成分組成に差はなく、いずれも食物繊維が多く含まれていることが明らかとなりました(表2)。
【成果の活用と反映】
カギイバラノリの生長に適した基本的な培養条件が明らかになり、屋外水槽でも良好な生長倍率を得ることができ、フリーリビング培養による陸上養殖が可能となりました。しかし、天然藻体の繁茂時期が限定されることなどから、安定した養殖のためにはさらなる生産性の向上が必要です。
今回、室内環境下でも藻体が成熟し胞子を得ることができました。今後は、母藻として天然藻体と人工採苗藻体を併用し、安定した生長倍率が得られる周年養殖技術の開発研究に取り組む予定です。
(早川浩一)
写真1 カギイバラノリ 写真2 ブド
写真3 カギイバラノリ成熟藻体(胞子が付着)
図1 八丈島底土海岸におけるカギイバラノリ着生量の変化
図2 カギイバラノリの生長におよぼす水温、光量子量および硝酸態窒素濃度の影響
表1 屋外円形水槽でのカギイバラノリ天然藻体の培養結果(14日間)
表2 カギイバラノリ天然藻体と培養藻体の成分分析結果
