【背景・ねらい】

 ハマトビウオ漁は大正期から、主要漁業の1つとして島しょの水産業を牽引してきました。しかし、年による好漁不漁の変動が激しく、島の経済にも大きな影響を及ぼしています。漁況を安定させるため、東京都では2001年よりハマトビウオの資源管理を行っていますが、その効果をいっそう高めるためにも海洋環境がハマトビウオ資源に及ぼす影響を把握することが求められています。

【成果の内容・特徴】

  1. ハマトビウオ漁況の周期変動 :1915年(大正5年)から2011年(平成23年)にわたる97年間の漁獲統計を解析した結果、漁獲量のピークは1922年、1942年、1961年、1881年、2005年に出現し、概ね20年前後の周期変動をしていることがわかりました(図1)。
  2. マイワシ漁況との関係 :マイワシ漁獲量のピークは近年では1933年と1987年に形成されましたが、それらの年はハマトビウオの不漁期と対応し、逆にハマトビウオの漁獲量がピークを示す年は、マイワシの漁獲量が増加初期あるいは減少後期に対応しており、両者の漁況周期には明らかな位相差が認められました(図1)。
  3. 北太平洋の海面水温変動と漁況の関係:気候学や海洋学の研究成果として近年、北太平洋の海面水温が10から20年前後の周期で温暖期と寒冷期を交互に繰り返すことがわかってきました。ハマトビウオは温暖期から寒冷期に向かう過程で好漁期を迎え、顕著な寒冷期に入ると大不漁となってその間はマイワシが好漁となることがわかりました(図1)。
  4. 海面水温と再生産成効率の関係:黒潮流域の春季海面水温および道東から三陸東方沖の夏季海面水温とハマトビウオの再生産成効率の間に正の相関があることがわかりました(図2)。前者は産卵場と仔稚魚の分布域に、後者は未成魚や成魚の夏季索餌域となっています(図3)。従って、暖水を好むハマトビウオにとって、高水温は仔稚魚の生残や、未成魚と成魚の生息域拡大につながり、それらが再生産に好影響を及ぼすものと推測されます。なお、温暖期から寒冷期への移行期に好漁となるしくみとして、アリューシャン低気圧の発達により海面が撹乱されて表層の栄養塩の増え、それが餌料生物の増加につながることが考えられます。

【成果の活用と反映】

 現在、ハマトビウオについては人為的な要因、すなわち乱獲による不漁の予防を目的として資源管理を進めています。今回、資源動向が北太平洋の海面水温変動と連動することが明らかになったことから、自然要因による変動を加味した資源管理が実現可能となりました。具体的には、資源の増大期には漁獲可能量を増やし、資源の減少期や回復期には、漁獲可能量を減らして親魚を保護するなどの対応が考えられます。これにより、資源動向に即したより精度の高い資源管理が可能となります

(米沢純爾)

図1

 図1 ハマトビウオとマイワシの漁獲量(上図)およびPDO指数(下図)の推移。

PDO指数が高いと北太平洋の海面水温が低く、逆にPDO指数が低いと海面水温が高いことを示す。赤い破線期間は北太平洋が温暖期、青い破線期間は寒冷期に当たっている。矢印は温暖期(温暖年)から寒冷期(寒冷年)への移行期にハマトビウオの漁獲が増加した事例を示す。

図2

 図2 北太平洋1度メッシュ海面水温とハマトビウオの再生産成効率の関係。

上図4から6月、下図7から9月。灰丸は正の相関、白丸は負の相関を示す。

期間はいずれも1997から2010年。

図3

図3 ハマトビウオの想定回遊経路