【背景・ねらい】

 島しょの重要資源であるキンメダイの持続的な利用のため、島しょセンターでは、キンメダイ資源の評価を実施し、検証を行っています。標識放流調査から得られる移動や成長等の情報は、資源評価の精度向上や考察に役立てることができます。そこで、これまでの標識放流と再捕の結果を整理し、資源管理の基礎データとしました。

【成果の内容・特徴】

  • 平成12~24年に大島、三宅島、御蔵島周辺のキンメダイ漁場で、合計1,359尾のキンメダイにスパゲッティータグ(図1)を装着した放流を実施し、合計47尾が再捕されました(再捕率3.5%)。年別の放流では、平成13年が最も多く621尾となり、このうち25尾が再捕されました。
  • 再捕された場所は、伊豆諸島海域内で30尾(63.8%)、伊豆半島東岸で14尾(31.9%)、千葉県勝浦沖ほかで2尾、最も離れた場所では放流場所の三宅島沖から約400マイル西南にある駒橋第2海山漁場で1尾でした。途中の移動経路は判明しませんが、放流されたキンメダイの多くは放流場所の伊豆諸島海域内に留まる傾向が強いことがわかりました(図2)。
  • 放流から再捕までの経過日数は、43~3,205日(平均1,512日、約4年)を記録しました。また、放流時のサイズが小さいほど(尾叉長300mm未満)再捕数が多く、成長量(尾叉長の伸長)も大きいことが確認できました(図3)。
  • キンメダイを深海から調査船上に釣り上げて標識を装着する時には、生息水温と気温の急激な温度変化が生じ、魚体に大きなダメージを与えます。しかしながら、再捕されたキンメダイの半数以上(55.6%)が、温度差15度以上の環境条件で放流された個体でした(図4)。また、月別の再捕率でも、温度変化の大きい7~9月の夏季に放流したキンメダイが合計7尾再捕(再捕率1.5~4.2%、平均2.7%)されており(図5)、再捕率を高めるには、温度差や実施時期以外の条件も影響していることが示唆され、放流方法を検討する基礎データとなりました。

【成果の活用と反映】

 伊豆諸島海域の主要漁場で放流されたキンメダイの多くが、同じ海域内で再捕されていることがこれまでの調査で判明しました。今後も引き続き標識放流調査を継続し、関係機関や漁業者等と協力しながら、伊豆諸島海域における放流魚の情報収集に努め、キンメダイの移動生態の解明に努めます。そして、その結果を、伊豆諸島海域内におけるキンメダイ資源管理の推進に役立てます。

(小埜田 明)

  

※1 標識放流された魚が、その後に釣獲されること。再捕した漁業者から、釣獲日や釣獲場所、魚体長等についての情報を得る。

※2 再捕率(%)=(再捕尾数)/ (放流尾数)×100

伊豆諸島北部海域におけるキンメダイの標識放流結果(移動経路の解明に向けて) 図表