【背景・ねらい】

 八丈島のテングサ漁獲量は、最盛期の1988年には667トンを誇りましたが、1990年代後半から急激に減少し、2000年代に入って非常に低水準で推移しています。そこで、その不漁要因を明らかにするためにテングサの繁茂状況と海洋環境のモニタリングを行い、海洋環境の変化によるテングサの盛衰との関係について解析を行いました。

【成果の内容・特徴】

  • 5年9ヶ月にわたる海水中の栄養塩濃度と黒潮流路、水温平年差を解析した結果、八丈島が黒潮内側域に位置すると、水温平年差が低くなり(図1a)、海藻類の生長に重要な窒素(図1b)およびリンの濃度が高くなりました。
  • テングサ類の代表種であるマクサは、八丈島が黒潮の本流もしくは外側域に位置した場合、低水準で推移しました。一方、八丈島が継続して内側域に位置するとマクサの資源量は一時的に回復しました(図2)。
  • 1980年以降の八丈島の各季節ごとの水温変動について解析した結果、テングサの生長期にあたる秋期および冬期の水温が上昇していることが明らかとなりました(図3)。

【成果の活用と反映】

  八丈島の海洋環境は、以前と比較してテングサを中心とした有用海藻類にとって生育しにくい状況になっていることが明らかとなりました。一方で、八丈島が黒潮内側域に入り、海洋環境が好転した時に資源量が回復することから、このような時に本研究で開発したマクサの人工採苗技術を用いて、資源量の回復を助長することが重要であると思われます。


(駒澤一朗)

黒潮は海の森を豊かにさせる?(八丈島のテングサの盛衰と海洋環境の関係) 図表