【背景・ねらい】

 八丈島のカツオ曳縄漁は平成17年頃まで漁業生産額の50%以上を占める基幹漁業でした。しかし、近年、不漁傾向が続いており、その生産額は20%前後まで落ち込んでいます。この不漁傾向は八丈島だけでなく、日本近海全体で同じ傾向になっています(図1)。このようなことから日本周辺海域への来遊量の減少が危惧されていますが、その原因がはっきりしていません。そこで、八丈島周辺海域からのカツオの移動特性を把握するために、カツオの標識放流を実施し、移動経路を把握するとともに、再捕位置と魚体の特徴から日本周辺海域におけるカツオの回遊モデルを推定しました。

【成果の内容・特徴】

  • カツオの標識放流結果
     漁業調査指導船「たくなん」により、2006年から2011年にかけて、延べ833尾のカツオの標識魚を放流しました(図2)。このうち、31尾が再捕され、再捕率は3.51%となりました。また、年別の再捕率は2008年7.14%、2009年3.72%、2011年2.25%となり、年により変動があることが確認されました(表1)。
  • 海域別移動率
     標識カツオの再捕位置から4つの海域区分を設け、海域別移動率を推定した結果、「東北沖」への移動率は2009年放流群100%でしたが、2011年放流群では確認されませんでした。その一方で、「南方沖」への移動率は2011年のみで30%となりました。また、「東沖」「伊豆諸島-沿岸域」への移動率は、2008年放流群と2011年放流群ともに約30%を示し、年によって海域別移動率に変動があることが確認されました(図3)。
  • カツオの体型と回遊モデル
     魚体測定により得られたカツオの尾又長組成と肥満度から来遊群の魚体特性をタイプ分けし、海域別移動率との検証をした結果、小型で肥満度の小さい個体が主群となる時には、東北沖すなわち黒潮・親潮移行域まで北上するものが多くなるのに対し、大型で肥満度の大きい個体が主群となる時には、黒潮を越えず、滞留もしくは南下するものが多くなるというカツオの回遊モデルが推定されました(図4)。

【成果の活用と反映】

  春季において八丈島周辺海域での漁獲状況や尾又長、肥満度の組成をモニタリングすることで、日本周辺海域へのカツオ来遊状況の把握および漁場形成の指標となります。今後、八丈島までの北上回遊経路を把握することにより、八丈島周辺での漁場形成時期や漁場・漁況予測を進める予定です。


(堀井善弘)

八丈島のカツオは何処へ行く(カツオの移動と魚体の関係) 図表