【背景・ねらい】

 平成14年に国と8都県市による「東京湾再生推進会議」が設置され、関係者による検討会議が開催されています。しかし、東京湾奥は生物が過ごしやすい健全な海とは大きく隔たっており、様々な改善策が求められています。現在、東京湾奥の埋立地周辺に浅場造成を行うことは容易ではありませんが、航路と陸域との間に設けられた緩衝水域が残されています。この付近に、東京湾奥で浚渫された良質の土砂を活用した立体的な生息場を造り、生息場の改善を図ることを考えました。

【成果の内容・特徴】

  • 二枚貝をとおしてみる生息場の現状
     2003年以降、毎年5月と9月に採泥器で採集した二枚貝7種の個体数と、月1回実施する底層水温と溶存酸素量(DO)の観測資料を用いて解析した結果、春から秋に発生する二枚貝は、種類によって変動が大きいものの、貧酸素化(2mg/L)が著しい場合、採集個体数が低下する傾向がみられました。また、数多く着底しても、その後の生残数は著しく低下することがうかがえました(図2)。
  • 東京湾再生のヒントにつながる漁業者情報
     内湾で長年漁業に従事する80歳代の複数の漁業者から、高度経済成長期以前の有望な漁場の特徴点を聞き取りました。その結果、海底に起伏がある砂浜域や、東京湾埋立拡張工事の浚渫土砂の仮置場(現在の中央防波堤沖に1968年まで設けられた通称、“大沖土捨場”)で魚類などの生物が数多く生息する有望な漁場が形成された、との情報を得ました。例えば、「ハゼ・カレイ・シロギス・ガザミ等々の魚がいっぱい獲れた。相当濁っていたけど、ハゼなんか朝の1時間で4~5貫(約19kg)獲っても、次の日にはまた湧いてきた・・・・」とのことでした。
  • 東京湾の現状と改善策の検討
     東京湾奥の埋立地と船舶航路との間の海底は、起伏のない平坦な軟泥であるため、夏秋期に貧酸素水の影響が現れやすいことがわかりました(図3)。また、漁業者情報から、砂浜域でも起伏があれば生物に良好な棲み処を提供していることが示唆されました。このことから、陸域と航路との緩衝水域に浚渫土砂を活用した海底の山(仮称、“砂泥の回廊”)を造成し、生物の逃避場を造るとともに、波の力など自然エネルギーを利用して表層の過飽和酸素水と底層の貧酸素水との混合を促して、底生のハゼ科魚類や二枚貝などの生息場の改善が図れる可能性が考えられました。

【成果の活用と反映】

 東京湾の再生に向けて国土交通省、水産庁、8都県市等の機関、漁業者、NPO等の様々な関係者による連携が進みつつあります。関連会議等で改善策を提案していきます。


(小泉正行)

東京湾における魚介類生息環境の改善策を探る!(二枚貝類から生息場の問題を明らかにする)