【背景・ねらい】

 多摩川を遡上する天然アユの数は近年増加傾向にあり、多摩川の環境改善のシンボルとして注目を集めています。また、堰の改修などにより遡上範囲も拡大しています。しかし、魚道の機能を十分発揮できていない堰もあり、アユが堰下に滞留し、鳥類等に捕食される状況もみられます。そこで、アユの遡上状況を把握するとともに、河川構造物に影響を与えない簡易魚道などにより、スムーズにアユを上流に遡上させる方法を検討しました。

【成果の内容・特徴】

  • 遡上量調査
     平成24年3月22日~5月31日の間に、多摩川河口より11km上流の位置(図1)に定置網を設置して、入網するアユを計数し、この期間の遡上数を推定しました。平成24年のアユ累積採集尾数は644,779尾で、遡上尾数は1,194万尾と推定しました(図2)。
  • 標識放流調査
     上記定置網で採捕したアユの一部(28,092尾)の脂鰭を切除して標識放流し、再捕報告を依頼した遊漁者34名から103尾の再捕報告(再捕率0.37%)がありました。多摩川および秋川を計12区に分け、区間別の報告尾数と遡上範囲を図3に示しました。今年度は多摩川および秋川の最上流区間で再捕が確認され、浅川で初報告がありました。
  • 遡上促進手法の開発
     土嚢式簡易魚道(図4):平成24年5月15日~6月19日に、日野用水堰にて設置試験および定置網による効果調査を行いました。16日間の効果調査で2目4科5種の魚類と2種の甲殻類、計3,488個体が採集され(表1)、そのうちアユ(全長5~16cm)が最も多く3,380尾が採集されました。
     パイプ式簡易魚道(図5):平成24年5月29日~7月12日に昭和用水堰にて設置試験及び定置網による効果調査を行いました。12日間の効果調査で、アユのみ442個体(全長6~15cm)の遡上を確認しました。
     誘導試験:平成24年6月12~15日、7月10~13日に羽村取水堰にて、ビニール紐の「おどし」漁具を取り付けたチェーンやロープを用い、堰下に迷入するアユを魚道へ誘導する試験を行いました。

【成果の活用と反映】

 遡上促進手法の開発により、堰下で滞留していたアユをスムーズに上流へ遡上させることが可能になります。これにより、天然遡上アユを漁業協同組合の漁場管理や遊漁振興に活用でき、さらに、都民に良質な食材として提供できるようになります。また、今後も遡上量調査や標識放流調査により、天然遡上アユの資源動向や遡上範囲の把握に努め、漁場管理や遡上促進の取り組みの基礎資料として活用します。


(橋本 浩)

多摩川におけるアユの遡上と遡上促進の取り組み(天然遡上アユをより上流へ) 図表