【背景・ねらい】

 アントクメは伊豆大島周辺海域に生息するコンブ目の海藻で、アワビなど有用貝類の良い餌となることから、地元の漁業にとって非常に重用な海藻です。大島町は、激減したアントクメ群落を復活させるため、毎年秋頃に、アントクメスポアバッグを島周辺のかつてアントクメ繁茂していた漁場に設置しています。大島事業所では、スポアバックの効果を判定するため、アントクメが繁茂する春頃に、これらの漁場でアントクメ生息状況調査を実施しています。また、海洋環境のモニタリングと合わせ、スポアバッグの効果や手法の改善策を検討しています。

【成果の内容・特徴】

  • スポアバッグ投入手法:2007年にスポアバッグを導入した際には、袋を固定する紐がねじ切れ、投入後1か月程度で流失していました。そこで、2008年以降は紐と袋の間に「より戻し」を取り付けたところ、投入して1か月後もスポアバッグの残存が認められ、翌2009年には着生株数の増加が認められました(図1)。
  • 海洋環境とアントクメ着生株数との関係:大島の各年月の水温と着生株数を比較しました。2009年は配偶体の生長期である9月の水温が生長最適温度の下限(24℃)を下回っており、翌2010年は全ての調査地点で着生株数が減少していました(図2、図3)。
  • 漁場別の着生株数:2008年以降、元町地区でアントクメ着生株数が安定して多い傾向が認められました。また、2012年以降、それまで着生株数で100株以上と安定していた岡田地区で0株となり、2013年も回復しませんでした。0株となる前年、2011年のの水温は配偶体の生長・成熟に適した水温だったため、この不調の原因は水温以外の要因が考えられました。(図2、図3)
  • 食害の影響:アントクメの中に、魚類と思われる食跡が確認され、魚類による食圧が着生株数に影響している可能性が考えられました。(図4)

    【成果の活用と反映】

 これまでの調査で、スポアバッグの安定的な固定方法や、前年の秋から冬にかけての水温や周辺海域の潮流が、翌年のアントクメ着生株数に影響していることが示唆されました。今後は、従来の調査を継続するとともに、水温以外の海洋環境についてもモニタリングし、アントクメ着生量に影響する環境要因を探っていく必要があります。また、魚類による食跡が多数認められたことから、アイゴやイスズミなど植食性魚類の影響についても調査する必要があります。このような調査・研究を通じ、アントクメスポアバッグの効率的な運用を提案し、藻場の造成に役立てていきます。                                                          

                                                            (飯島純一)

伊豆大島におけるアントクメスポアバック追跡調査