【背景・ねらい】

 近年、多摩川に遡上する天然アユは増加傾向にあります。このアユを上流域や支流などで広く活用するため、島しょ農林水産総合センターでは平成23年から、土嚢など安価な材料を利用し、設置・撤去が容易な簡易魚道を開発し、堰下に滞留しているアユを上流に遡上させる方法を検討しました。平成23年度には日野用水堰(高さ1.3m)で土嚢式簡易魚道を、平成24年度には昭和用水堰(高さ3m)でパイプ式簡易魚道の設置試験を行いました。

 平成25年度は、大丸用水堰(高さ2.5m)において土嚢式簡易魚道の設置試験を行いました。また、秋川南郷堰において新たにハーフパイプ式簡易魚道の設置試験を行いました。

【成果の内容・特徴】

  •  遡上量および遡上状況調査:平成25年3月18日~5月31日の間に、多摩川下流域に設置した定置網(図1)に入網したアユは348,081尾で、この期間の遡上数は645万尾と推定しました(図2)。また、採捕したアユの一部(36,627尾)を標識放流し、合計64尾の再捕報告があり、下流側の2区で47尾と最も多く確認されました(図3)。平成25年のアユ遡上は、少雨渇水の影響を受け、上流への遡上状況は悪かったと考えられました。
  • 土嚢式簡易魚道5月7~9日に大丸用水堰(堰高2.4m、図4)において、土嚢袋1,930枚を用いて簡易魚道を作成しました。効果調査の結果、5月15~22日に、アユ22尾の遡上を確認しましたが、その後は、渇水のため簡易魚道を流れる水量が少なく、6月4日の撤去まで魚類の遡上は確認できませんでした。
  • ハ ーフパイプ式簡易魚道平成25年7月1~12日の期間に、秋川南郷堰(堰高2m、図5)において、塩ビダクト管(径35cm、長さ4m)を半分に切ったものを用いた簡易魚道(幅7m、勾配1/3.5)を設置しました。構造は、足場用単管パイプでフレームを作り、塩ビ管内に魚網を利用した蛇籠と石を配置して魚の休憩場所を設けました。効果調査の結果、10種の魚類と2種の甲殻類、計360個体(アユは50尾)の遡上を確認しました(表1)。

【成果の活用と反映】  

 

多摩川水系の様々な形状の堰に対応できるよう、土嚢式、パイプ式、ハーフパイプ式などの各種簡易魚道の開発を行いました。これらを適所に用いることにより、堰下に滞留するアユを上流に遡上させ、アユ資源の有効活用を図ることができます。また、平成25年度から当センターの技術指導により内水面漁連が主体で、日野用水堰に土嚢式簡易魚道の設置・解体を行っています。

今後も、関係機関と連携し、これら技術活用しながら遡上促進に取り組み、滞留アユをスムーズに上流へ遡上させ、内水面漁業の振興を図ります。                    (橋本 浩)

      簡易魚道で天然アユののぼりやすい川づくり