【背景・ねらい】

  平成14年に国と8都県市(現在9都県市)の行政機関を軸に「東京湾再生推進会議」が発足しました(第一期)。平成25年より第二期となり、一層の進展を図るため、NPO、企業、水産業、レジャー等々の多様な機関・個人をまじえた「東京湾官民連携フォーラム」を立ち上げて10年先を踏まえた対策が検討されようとしています。これには、参加する個人や団体が情報を共有し知恵を絞る必要があります。そこで、現状の到達点と課題がみえるような情報発信を行うため、環境が厳しい場に生息する二枚貝を環境指標生物にみたてて評価しました。 

【成果の内容・特徴】

  • 河川下流域を代表するヤマトシジミの変動と水質変化との関係:河川水の汚れ具合をあらわすBOD(単位㎎/Lで有機物量が多いと高い)は、下水道が普及した結果、荒川が1992年、多摩川が1998年頃に2~3㎎/Lに低下しました(図1)。この値は、水道用水2級にほぼ相当し、大幅に改善されたことを示します。一方、ヤマトシジミの漁獲量は、汚濁が著しかった高度経済成長期の1965年頃は統計記録にあらわれませんが、BODが急速に低下し水質改善が顕著になった1995年以降に一気に増加し、その後高水準で推移しています(図2)以上のことから、水質改善効果が汽水域にあらわれたと考えられます。
  • 河口域の浅場に生息する二枚貝の成長と生残:2010年1月から2012年12月まで毎月1回、小型底曳網(網口3m、目合1.25㎜)を30m曳網して標本を採集しました。その結果、サルボウガイ、ホンビノスガイなどの一部の二枚貝を除き、ほぼ春期以降に増殖し8~9月に激減することがわかりました(表1)。次に、二枚貝の成長と生残状況をみるため、採集数の多い二枚貝4種の大きさを時系列(月の順)に整理しました(図3)。その結果、新規に加入した1~3㎜サイズの個体のうち、3カ月ほどの成長をたどることができたのはアサリ(6~8月)とチヨノハナガイ(4~6月、5~7月)の2種で、このほかは1~2ヶ月の短期間でリセット(死亡)されるパターンがうかがえ、当該水域の生息環境が非常に厳しいことがわかりました。

【成果の活用と反映】  

   国土交通省、水産庁、環境省、保安庁や9都県市等の関係機関、漁業者、NPO等の様々な関係者が一同に集まる東京湾再生シンポジウムや、水産分野による東京湾研究会が毎年開催されています。これらの場で調査結果を伝え、東京湾再生に向けた取り組みを進めていきます。 

                                                          (小泉正行)

  河川下流と河口域の生物再生状況を診断する!