【背景・ねらい】

 黒潮の流路変動は、伊豆諸島海域で営まれる様々な漁業に大きな影響を及ぼします。このため、当センターでは、日々の海況情報を提供する「海の天気図」(図1)を発行し、黒潮の流路変動に伴う漁場形成の予測を容易にすることで漁業者の効率的な操業を支援しています。

【成果の内容・特徴】

  • 東京都では、伊豆諸島海域を漁場とする千葉県、神奈川県及び静岡県の3県と協力し、昭和60年から伊豆諸島海域の海況図(「海の天気図」)を発行してきました。海況図作成に必要な情報は、調査指導船「みやこ」(写真1)、「やしお」及び「たくなん」が実施する伊豆諸島海域の海洋観測(写真2)結果を集約し、この情報をもとに海況図作成の根幹となる黒潮流路の位置を確認します。また、調査船の航行中には、常に航走データ(水温、流向・流速)を把握し、最新の情報を「海の天気図」に反映できるシステム作りにも取り組みました。
  • 衛星画像が普及してくると、広域にわたる海の様子を容易に確認できるようになりました。しかし、衛星画像は雲や風雨などの影響を受けるため、天候の良い日でないと詳細な画像を入手することができません。また、衛星画像から得られる水温情報は相対的な値であるため、漁業者が必要とする現場水温を知ることはできません。このため、漁業者から〝天候に左右されず、かつ黒潮上流域を含めた広範囲で精度の高い海況図〞が求められるようになりました。そこで、新たに三重県と和歌山県を加えた1都5県で共同研究を行い、衛星データと実測水温の水温同化技術を開発するとともに、海況図作成の一連の技術とシステムの運用体制(図2)を確立しました。

【成果の活用と反映】  

    共同研究によって開発した高精度海況図は、新たな「海の天気図」として平成20年度から発行しています。従来の「海の天気図」に比べて、対象海域が拡大されるとともに等温線の間隔が1℃から0.5℃となり、より詳細な海況変動を捉えることが可能となりました。また、白黒画面からカラー画面に変わり、さらに見やすい海況図になっています。現在では、漁業者をはじめ海運やマリンレジャーの関係者からも広く利用されており、「海の天気図」を掲載している島しょ農林水産総合センターのHPへのアクセス件数は、毎月1万件以上となっています。なお、新「海の天気図」の作成、発行に係るこれまでの取組は、漁業者の効率的な漁場探索、マリンレジャーの安全性向上に大きく貢献しているとして、平成25年度全国水産試験場長会会長賞を受賞しました。

※水温同化技術:衛星データは広い海域を一度に解析できる面のデータであるが、得られる値は水温の相対値である。これを、点のデータである実測水温で補正することで、広い海域の水温の値を得ること。

 

                                                                                   (瀧口 香穂)

新「海の天気図」で見えてくる伊豆諸島の海