背景・ねらい

 小笠原近海では回遊性魚類の幼魚が大型魚とともに曳き縄などで漁獲される。しかし、小型魚の市場価値は低く、漁獲魚の大半は投棄、あるいは自家消費となっている。そこで、海面生け簀でキハダ幼魚の蓄養試験を行い、成長過程と肉質等の変化を調査した。また、市場での評価を確認することによって新たな蓄養殖漁業展開の可能性について検討した。


成果の内容・特徴

  1. 試験は平成7年に開始され、当初は成長に主眼をおいて試験を行った。この結果、採集時体重約kgの幼魚は、約2年間の飼育で40kg以上に成長した。しかし、過度の脂肪蓄積のため、全身トロ状態で肉色は白みを帯び、肉質は軟らかかった。成長は良好であるものの、肉質に課題を残す結果となった。
  2. 2回目の試験は短期間の蓄養試験を行った。平均体重約5kg幼魚を約9ヶ月間蓄養した結果、平均体重10.2kgに達した。この時点で食味試験を行った結果、やや脂肪は落ちたものの、不評であった。
  3. 3回目の試験では飼育期間、給餌量、給餌回数を調整して、肉質の改善を図り、約1年半で平均体重25kgに成長した。築地市場に試験出荷したところ、1000円/kgから2000円/kgの価格がつけられた。
  4. 蓄養にかかるコスト計算を行ったところ、20kg以上になると採算ベースにのることが判明した。

成果の活用面・留意点

 今後は養成方法のさらなる改善を図りながら、隣接の漁協養殖場での事業化に向けた展開を進めていきたい。


図1 第3回養成試験測定結果

図1 第3回養成試験測定結果


測定年月 測定尾数 尾叉長(cm) 体重(kg) 肥満度
1998年5月 18 66.3 5.6 18.5
1998年9月 5 73.5 8.5 19.5
1998年11月 5 81.2 11.8 21.9
1999年1月 5 100.1 24.9 24.6
1999年3月 5 97.5 20.6 21.9
1999年5月 4 104.1 21.3 18.8
1999年7月 2 112.1 26.1 18.3
1999年9月 1 113.0 28.1 19.4
1999年11月 2 113.5 25.4 17.3
1999年12月 9 113.2 23.7 16.7

表1 第3回養成試験測定結果

*1998年5月の測定結果は収容前に死亡した個体のもの


図2 養成キハダ

図2 養成キハダ
体重約20kg 尾叉長約100cm

図3 円形生簀(直径30m、深さ10m)からキハダを取り上げる

図3 円形生簀(直径30m、深さ10m)
からキハダを取り上げる

図4 取り上げたキハダは鮮度保持のため延髄破壊により即殺する

図4 取り上げたキハダは鮮度保持のため
延髄破壊により即殺する

図5 天然に近い肉色をしている養成キハダ

図5 天然に近い肉色をしている
養成キハダ