【背景・ねらい】

 伊豆大島は寒天の原藻であるテングサ(主にマクサ)の主要産地ですが、資源は減少傾向にあり、テングサ藻場をつくり育てていくことが望まれています。

 スポアバッグは、近年、コンブ類を中心に効果が報告されている藻場造成法の一つで、従来の投石やコンクリートブロックの据付けによる藻場造成に組み合わせることで、その手助けとなり、紅藻類であるマクサへの応用が期待されています。そこで、マクサにおいても胞子の供給による増殖効果が期待できるのか、投入適期や環境条件はあるのか、実際にスポアバッグの投入試験を行い、これらを明らかにしました。

 成熟した海藻を天然藻場から採取し、これを袋に詰めて基質の上に吊す袋のことで、袋から胞子を飛散させ基質への海藻の加入を促進させるのに用いる

【成果の内容・特徴】

  1. スポアバッグによる胞子の供給とその適期

 通常、スポアバッグは成熟藻体の採取できる限られた時期に投入しますが、伊豆大島では、1年を通して成熟藻体を採取できることがわかりました(図1)。次に、浅海域の2地点にて、1年3カ月にわたって、毎月1回、成熟藻体100gを詰めたスポアバッグを投入する試験を行い、放出された胞子の状況を調べました。その結果、スポアバッグ由来の胞子の着底を確認し(図2a)、また、7から10月に着底密度が高くなることがわかり(図2a、b)、投入時期の指針を得ました。

  1. 着底した胞子が生育する環境条件

  試験地Aでは、スポアバッグを吊していたコンクリートブロックのすべてにマクサが着生し(図3)、平均着生密度は739株/㎡にもなりました。また、平均全長8.3cmまで生長し、成熟も確認しました(図4a)。試験地Bでは、マクサの着生は一時的でした(図4b)。

 環境を比較したところ、漂砂が多いことがわかりました(表1)。試験地Bは遠浅で、冬季に波浪が強く、これにより発生する漂砂による摩耗が、マクサの幼藻体の生育を阻害していると考えられました。

【成果の活用と反映】

 適切な時期に、適切な場所でスポアバッグを併用することで、効果的なテングサ藻場造成を期待できることがわかりました。また、今回注目された漂砂については、砂地で行うことの多い投石等で設計段階からその影響を考慮できれば、更なる効果の向上へとつながる可能性があり、新たな研究課題として取組んでいく予定です。

(高瀬智洋)

図1

図1 成熟藻体(果胞子托及び四分胞子托を形成したマクサ)の出現率の月変化

 

図2

図2 テングサ類胞子の着底密度の月変化

■:スポアバッグ内に入れたスライドグラスに着底した胞子の密度

□:成熟藻体を詰めない空の袋内に入れたスライドグラスに着底した胞子の密度 
     

図3

図3 スポアバッグを吊していたブロック(試験地A)  
      

図4

図4 ブロックに着生したマクサの生長と成熟

*は胞子托形成藻体が観察されたことを示す

 

表1 スポアバッグ試験及び環境測定の結果   

表1