【背景・ねらい】

 イシダイは小笠原において遊漁の対象種として重要な水産資源です。また、全国各地の市場では500 g以上の養殖物の活魚が高価格で取引されていますが、本土では水温が低く、商品サイズに達するまで3年以上を要します。さらに、病気の発生により近年では本種の養殖は低迷しています。小笠原海域では周年にわたって清浄で暖かい海水が得られるため、短期間で高成長が期待でき、病気も発症していないため、養殖対象種として有望な魚種と考えられます。そこで、自家生産したイシダイ稚魚を2年間養成し、養殖対象種としての可能性を検討しました。

【成果の内容・特徴】

  1. 平成20年4月に種苗生産した稚魚を用いて、平成22年3月までの2年間、二見漁港内に設置した亀甲網生簀(図1)でマダイ用配合飼料を給餌して養殖試験を行いました。
  2.  本種は、ふ化後1年で平均全長25.2 cm、平均体重391 g、ふ化後2年では平均全長33.1 cm、平均体重789 g に成長しました(図2、図3)。2年間の生残率は99.2%でした。
  3. 増肉係数(魚体を1 kg増重させるのに必要な飼料のkg数)はふ化後1年までが1.78でしたが、ふ化後2年では3.48となり、効率が悪くなってしまいました(図3)。その理由として、本種は満1年で成熟したため、産卵期間中(平成21年4月から7月)の成長が停滞したためであると考えられました。
  4. 増肉単価(魚体を1kg増重させるために必要な飼料費)はふ化後1年までが406円、ふ化後2年までは786円でした(図3)。一般に、養殖収入に対する飼料費は50%以下が望ましいとされているので、今回の増肉単価から、魚価か1,572円以上であれば、養殖経営が成り立つと考えられます。平成22年の築地市場における本種の活魚価格は、平均2,307円でしたので、本種は十分利益が得られると考えられました。
  5. 本土への活魚出荷は、定期客船や定期貨物船を利用しますので(図4)、輸送にかかる経費は大幅に削減できます。
  6. 一方、平成21年度3月に生産した稚魚を1年間養成した1年魚42尾(平均全長26.6 cm、平均体重401 g)を用いて採卵を試みた結果、平成22年4から7月までに71日間産卵がみられ、自然産卵によって良質の受精卵を大量に得ることができました。これまで、他所でのイシダイの産卵は満2年魚以降ですので、当地における満1年魚からの採卵は全国で初めてです。

【成果の活用と反映】

 本種は本土海域より短い2年間の養成で商品サイズに達するので、コストパフォーマンスに優れた養殖が可能であることがわかりました。また、満1歳での成熟は養殖対象種としては成長の停滞が懸念されますが、親魚養成の観点からは、養成期間の短縮や育種による優良親魚作出等の利点があります。

(川辺勝俊)

図1  図2

図1 イシダイ養殖試験生簀       図2 満2年魚のイシダイ養成魚、

                       全長32 cm、体重784 g

図3

 

図3 イシダイの2年間の成長と増肉係数・増肉単価の推移 

図4

図4 本土への出荷方法、左図は定期客船おがさわら丸に乗せる活魚コンテナ、
右図は貨物船八幡丸に設置された活魚水槽

 

表1 イシダイ満1年魚の採卵結果 

産卵期間

4/12~7/31

産卵日数

71日間

産卵水温(℃)

24.8±(22.0~27.7)

総採卵数(千粒)

11,307

日間採卵数(千粒)

159±179(4~1,217)

浮上卵率(%)

20.8±1.5(0.0~86.7)

ふ化率(%)

92.0±9.3(65.0~100.0)

卵径(mm)

0.808±0.018(0.769~0.851)

油球径(mm)

0.189±0.005(0.181~0.202)