【背景・ねらい】

 平成14年より内閣官房都市再生本部を事務局に、国や8都県市の関係機関で構成される「東京湾再生推進会議」が設置され、再生論議が活発に行われています。しかし、今の東京湾は生物が過ごしやすい健全な海とは大きく隔たっています。そこで、東京湾で見られる問題点を幾つか整理し、漁業者情報も参考にしながら、東京湾再生の一歩としての改善策を検討しました

【成果の内容・特徴】

  1. 貧酸素水塊の形成:上下の海水が混じりにくい高水温期には、貝類などの生存が厳しいほど底層の酸素量(以下、DOと呼ぶ)が極端に低下します(図1)。
  2. 硫化水素の発生?:貧酸素に強く、アサリより深い砂泥地帯に生息するホンビノスガイが、砂泥地帯に形成された白カビ状の場所で大量死亡することがあります(図2)。貧酸素状態下で活発に増殖する硫酸還元菌群による毒性の硫化水素の影響と考えています。
  3. 底層酸素量と2枚貝類の出現との関係:2枚貝の出現量が低水準であったのは、貧酸素が顕著に現れた時期に見られました(図3)。貧酸素水塊が契機になって着底貝が死亡したものと考えられます。
  4. 湾奥で見られる特徴的な光景:図4は、“稚魚のゆりかご”と言われるアマモの移植試験中(春期~夏期)にお台場で見られた光景です。左図は植物プランクトンの異常発生による透明度の低下、右図は僅か2週間足らずで葉っぱ(草体)にフジツボやイガイ類が付着して全面被覆したケースで、アマモの生育(光合成)が著しく阻害され草体が消滅しました。図5は平成19年9月に襲来した台風9号の出水で、葛西臨海公園沖“東なぎさ”に堆積したヘドロ(平均約5㎝の厚さ)です。この攪乱の影響で、中央部の調査水域では貝類が全滅しました。
  5. 漁業者情報の整理:東京オリンピック開催前後の埋め立て工事用浚渫土砂の仮置き場(縦横500から600mの範囲)では、マハゼ・キス・カレイ類等が湧くほど集まったとの情報を得ました。水質汚濁が進んでいた当時、海底から海面まで盛り上がる場所は、多様な生物のホットスポットであったと考えられます。

【成果の活用と反映】

 東京湾の再生には、水質浄化機能の高い浅場造成や住民の協力など重要な事項が数多くあります。その第一歩として、上記の調査結果や情報を元に作成した生物回復策のスライド(図6、図7)を行政交流会や環境学習などの場で活用していく予定です。

(小泉正行)

図1

図1 水温と(DO)の鉛直構造
注)上段は羽田沖、下段は若洲沖、○印は水温(℃)、●印はDO値(㎎/L)

 

図2

図2 ホンビノスガイの死亡と白カビ

注)図中、黒矢印は生貝の楕円状水管、白矢印は瀕死状態の個体の扁平な水管 
     

図3

図3 底層水温、DO及び2枚貝の出現
 注)図上段の点線枠は、夏秋期に貧酸素が顕著だった期間を表す。平成16年5月はデータ不備のため割愛。
図4
図4 アマモの生育阻害

注)左図は異常増殖した植物プランクトン、右図は葉っぱに付着したフジツボとイガイ類(緑の葉っぱは被覆した部分から剥がした元の状態)

図5

図5 河口攪乱で堆積した泥と死亡貝

注)死亡した2枚貝は、シオフキ・アサリ・マテガイなど

図6

図6 生物生息場“砂泥の回廊”

注)波動により海面の過飽和酸素水と底層の貧酸素水を混合させ、底生魚類の退避場と2枚貝の死亡率低下を意識したイメージ図

 図7

図7 環境学習スライドの事例