【背景・ねらい】

 八丈島において漁獲される有用海藻には、テングサ(マクサ)、トサカノリ、カギイバラノリ等があります。しかし、近年の高水温・貧栄養の海洋環境の影響で(図1)、いずれの種も水揚量が減り、何らかの増殖手法の開発が求められています。海藻の増殖を行う場合、天然母藻を利用する方法では母藻の質、量が環境に左右され、安定した増殖が期待できません。そこで八丈事業所では、最重要種であるマクサの種苗生産技術を開発し、それを利用した移植実験による核藻場の維持に取り組むとともに、その採苗技術の他の海藻への応用を試みました。

【成果の内容・特徴】

  1. 海藻の人工採苗では、対象海藻以外の雑藻や細菌等の混入を如何に防ぐかが一番の課題です。そこで、四分胞子嚢を形成したマクサ藻体の洗浄処理に工夫を施すことにより、夾雑物の少ない四分胞子を多数得ることに成功しました(写真1)。この四分胞子はその後、順調に生長し、採苗3ヶ月後には多数の果胞子嚢を形成し、1年7ヶ月後には、藻長は20㎝に達しました(写真2)。
  2.  上記の採苗技術を活用し、常時、採苗可能なマクサ四分胞子体および果胞子体母藻の培養に成功しました。保存培養は、藻長20㎝程度の藻体でも容量2リットルのビーカーで行うことができます。このマクサ四分胞子体の母藻の枝先を約4㎝切り取り、ロープに挟み込み、移植実験を行った所、移植したマクサは、同じ海域の天然マクサより藻長が長く、良好な生長を示すことが明らかとなりました(写真3)。
  3. マクサで確立した胞子採苗技術をトサカノリ(写真4)およびカギイバラノリ(写真5)に応用した所、マクサと同様に採苗できることが明らかとなりました(写真4)。

【成果の活用と反映】

 今後は、人工採苗したマクサ母藻を用いて核藻場維持のための移植技術の確立を図ります。また、トサカノリ、カギイバラノリについては藻場造成および養殖への応用の可能性について検討します。

(駒澤一朗)

図1

図1 八丈島における各季節毎の平均水温の変化

写真1  写真2

写真1 採苗翌日のマクサ四分胞子。   写真2 採苗後、1年7ヶ月経過したマクサ

    四分胞子の直径は30.7um。       母藻。藻長は、約20㎝。

写真3 写真4

写真3 食害防御かごを用いた       写真4 採苗後、7ヶ月が経過した
    マクサ移植実験              トサカノリ種苗

写真5

写真5 採苗後、3ヶ月が経過した
    カギイバラノリ種苗