【背景・ねらい】

 東京都では1983年以降、多摩川下流域でアユの遡上状況調査を行ってきました。しかし、下流部の調査地点を通過したアユがその後、どのように遡上を行うのか、多摩川中流域での知見はありませんでした。そこで、アユが実際にどれくらいの速度で多摩川を遡上するのか?ガス橋から昭和用水堰間で追跡調査を行いました。同時に水位や水温の変化を記録し、その結果、江戸前アユの遡上生態について知見を得ました。また、遡上数、遡上範囲の調査を行いました。

【成果の内容・特徴】

  1. 遡上数調査:多摩川のガス橋上流に設置した定置網による調査から、平成22年3月24日から5月28日までの間のアユの累積採集数は100,746尾で、推定遡上数は約187万尾となり、遡上数は5年連続100万尾を超えたものと推定されました(図1)。
  2.  遡上速度:調査はガス橋から昭和用水堰までの5箇所で行いました(図2)。3月31日にガス橋上流で確認された遡上アユの第一ピーク群(図3)を追跡し、5月4日に昭和用水堰で確認されました。遡上速度が最も早かったのは日野用水堰から昭和用水堰までの区間で、その速度は2.6km/日でした。遡上速度が最も遅かったのは大丸用水堰から日野用水堰までの区間で、その速度は0.9km/日でした。ガス橋から昭和用水堰までの平均遡上速度は1.06km/日でした(図4)。
  3. 遡上範囲:推定遡上数187万尾のうち、17,159尾(0.9%)を標識放流(脂鰭切除)し、99尾の再捕報告(再捕率約0.58%)が得られました。今年は、全再捕魚の約83%に当たる82尾が秋川で再捕されました(図5)。羽村堰より上流での捕獲がほとんどなかったことから、昭和用水堰を通過したアユの多くが秋川に遡上したことが示唆されました。

【成果の活用と反映】

 江戸前アユは仔稚魚期を東京湾で過ごし、成長とともに多摩川に遡上してきます(図6)。遡上数の変化を把握することにより、東京湾を含めた多摩川の環境を把握することができます。また、アユの遡上速度を詳細に分析することにより、各堰などの遡上阻害要因を把握し、簡易魚道など遡上促進方法の導入や設置のタイミングを検討することができます。今後も、江戸前アユの生態を把握し、多摩川により多くの江戸前アユが遡上するよう、調査を行っていきます。

(前田洋志)

図1

 図1 多摩川における年別アユ推定遡上数

図2

 図2 調査地点(●)

図3

図3 ガス橋上流での定置網におけるアユの捕獲状況と水温変化
(丸印:大潮 ▲:調布取水堰倒伏)

図4 

図4 遡上速度調査結果

図5

図5 遡上範囲調査

図6

図6 魚道を遡上中の江戸前アユ