第1巻第5号(通算5号)東京都小笠原水産センター
1999年12月24日発行

1. 小笠原初記録のカキ「オハグロガキモドキ」

 昨年2月に小笠原諸島父島の八瀬川で当センター職員により見慣れないカキが発見されました(図1)。一見したところ外洋に面した海岸に生息する貝類のオハグロガキに似ていましたが、採集された場所が汽水域であったことや、いくつかの異なった形態上の特徴を持っていたため、貝類に詳しい東京都水産試験場本場の西村和久場長(当時)と千葉県立中央博物館の黒住耐二博士に標本を調べていただきました。その結果、この貝はオハグロガキ類の一種で学名 Saccostrea cucullata と同一種とされました。現在、カキ類の分類には混乱がみられるようで、本種の新称としてオハグロガキモドキの和名が与えられました。このカキは小笠原諸島で初めての貴重な記録となりました。


図1 初記録のオハグロガキモドキ

図1 初記録のオハグロガキモドキ


2. 小笠原の海から新種のエビを発見!

父島の横山さんが発見!

 小笠原諸島南島沿岸の海底から採集されたエビ(図2)が新種として記載されました。この紅白の色彩の美しいエビは、小笠原父島の横山祥士朗氏が漁の際に採取し、当水産センターにお寄せいただいたものです。当初このエビはムギワラエビの仲間であろうと思われましたが、形態・色彩などが既知の種のいずれとも異なっていたため種の同定ができず、これまで報告されていない種の可能性が高いと推察されました。その後、東京大学の大澤正幸博士(現国立科学博物館)のご協力が得られ、詳細な分類学的検討を行った結果、未記載種(いわゆる新種)と結論されたので関係学会誌に新種として論文発表しました。本種には特徴的な額角にちなんで学名 Chirostylus rurtratus が与えられました。採集された海域は水深約180mで潜水調査のできる深さでもなく、その生態については全くの謎です。この繊細な美しさを持ったエビに象徴されるように、小笠原の海にはまだ人に知られていない多くの生物が生息しているのでしょう。


図2 Chirostylus rustratus  Osawa & Nishikiori,1998

図2 Chirostylus rustratus  Osawa & Nishikiori,1998