第1巻第6号(通算6号) 東京都小笠原水産センター
2000年1月12日発行

小笠原諸島深海の巨大イカ

小笠原の深海には巨大イカの世界が広がっている?

 数年前に小笠原に導入されたソデイカ漁業は、年によって好不漁の波はあるものの、小笠原の漁業のひとつとして定着しました。この漁業は水深数百メートルのいわゆる深海漁場を操業し、ソデイカ以外にもアカイカなど他種のイカ類も混獲されます。ソデイカは時には20kgを超える大型のイカですが、混獲されるイカのなかにはさらに大型の種類のイカも含まれます。その代表といえるのがダイオウイカです。絵本などではマッコウクジラと死闘を演じるその名のとおり深海の魔王として描かれることもあるようですが、実際に生の標本を解剖してみると、軟甲は脆弱であり、長大な腕部も簡単にちぎれるほど華奮で、とても「大王」や「魔王」にはほど遠い感じを受けます。全長十数mに達することもあるその巨大さが恐い印象を与えているのでしょうか。ダイオウイカは小笠原水産センター調査船「興洋」により体の一部分が採集されているほか、父島のちひろ丸や駿恒丸などからも釣獲情報をいただいています。このほかにもホエールウォッチングの際にマッコウクジラに捕食される様子なども観察されているようです。ダイオウイカの他にも全長5mを超えるユウレイイカ科の一種シチクイカも採集されており、小笠原周辺海域では巨大イカは幻ではなく、かなりの数が生息している可能性が高くなってきました。ソデイカ漁業による混獲物情報は、これまで全く未知であった深海生物の息吹を私たちに伝えてくれます。亜熱帯小笠原の深海には私たちの想像を超えた巨大イカの世界が広がっているのかもしれません。


図1 ダイオウイカの一種 Architeuthis sp.

図1 ダイオウイカの一種 Architeuthis sp. (父島・駿恒丸提供)


図2 シチクイカ Asperoteutis acanthoderma

図2 シチクイカ Asperoteutis acanthoderma (父島・佑幸丸提供)