メカジキのひみつ

 

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メカジキの眼

 昼間は鉛直移動により、深い海に潜るメカジキ、果たして何mくらいまで、潜水することが可能なのでしょうか?メカジキの行動を探るため、PAT-tag(電子標識)を付け放流したメカジキの行動データを解析したところ、最大808mまで潜水していたことが分かりました。この深海への潜水を可能にしているのが、メカジキの頭の中に備わっている「ブレインヒーター」と呼ばれる組織です。この組織の能力は、どの程度なのでしょうか?

メカジキの眼

                   写真1 メカジキの眼
 オーストラリアの脳科学研究者Kerstin Fritschesらは実験により、メカジキは、脳と眼を19~28℃までに温度を保つことができるとし、これにより暖めない場合と比較して、7~12倍早く、イカ等の餌を見つけられるとしています。電子標識により得られた実際の行動データから、この能力を検証してみることにします。潜水する直前の海面水温と潜水中の深海の水温差を、図1に示しました。もっとも多かった水温差は22℃で、その次が、21℃という結果でした。少なくともメカジキのブレインヒーターは、20℃くらいは、脳や眼を暖められる能力があると思われ、この能力のお陰で、深海の暗闇の中でも、餌を探し出すという、離れ業を、容易にやってのけているのではないのでしょうか。

水温差

図1 海水面と深海の水温差

 今回のデータの中で、最大水温差は25℃でした。これは先に述べた、最も深い水深にまで潜水した個体のもので、その時の海面水温は29.8℃であったのに対し、水深808mでは、水温が僅か4.8℃しかありませんでした。

体重と水温差

図2 水温差と体重

 ちなみに、この個体の推定体重は150kg。そこで体の大きさと、水温差の関係を図2に示しました。図から、体重が重たい方が、水温差に対し、耐えられる傾向にあることが伺えます。即ち、大きな魚ほど、より深く潜って餌を探し出すことができるのではないでしょうか。この組織の卓越した能力によって、メカジキは、生息範囲を広げ、全世界の熱帯から温帯域にかけ、広く分布してきたのではと想像されます。

「ブレインヒーター」

「ブレインヒーター」とは、眼の後方、脳の近辺にある熱生産筋肉に変化した組織のことです。脂肪に包まれており、その細胞には、ミトコンドリア、ミオグロビン、シトクロムCが高く含まれていることが分かっています。血液はこのヒーター組織を経由して脳と眼に送り込まれ、水温が冷たい所でも、眼と脳は働くようになっています。これまで22魚種にあることが分かっていてメカジキは他の魚類と比べ非常に発達しています。

ブレインヒーター

どこへ行くのか

小笠原近海で標識を付けたメカジキは、その後、どこまで泳いで行ったのでしょうか?図3はこれまで放流したメカジキの移動経路です。多くは北に向かい泳いでいったことが分かります。移動した経路と海底の地形を重ね合わせたところ、どうやら海底の出っ張った部分(海山や海丘)をたどりながら移動した様です。海山や海丘には湧昇流によって、餌となる生物が発生しやすいことから、良い漁場となる場合が多く、どうやら、メカジキも、こうした場所を探しながら移動したものと思われます。得られたデータで、最長は227日間、約5,200kmを移動していました。1日の平均移動距離は、8~36kmくらいで、全個体の平均では1日21kmでした。メカジキの最大遊泳速度は時速80kmとも言われていますが、どうやら、餌を探しながら、あちらこちら、うろうろと泳ぎ回っていたのではないかと想像されます。メカジキの潜水も移動も、成長のための「餌探しの旅」と言えるのではないでしょうか。

図3 移動経路

図3 移動経路