第3巻第9号(通算28号) 東京都小笠原水産センター
2001年12月29日発行

母島沖港でメアジが大量死

 2001年10月17から20日に小笠原母島沖港内でアジ科魚類メアジ Selar crumenophthalmus の大量死がありました(図1)。今回はその状況についてお知らせします。なお、最近では1999年8月10日から12日にも同様の大量死が母島沖港で記録されています。
 10月17日に母島沖港でメアジがまとまって死んでいるとの一報が寄せられ、海況が好転した19日に小笠原水産センター調査船「興洋」が母島沖港に入港し、支庁母島出張所、村役場母島支所、母島観光協会および小笠原警察署母島駐在所等と共同で死魚の回収を行い、同時に現状確認と記録、海水の測定、サンプリング、間き取り調査等を実施しました。死魚は20日までに回収できたものだけでも3,840尾、死亡総数は4,000尾から5,000尾と推定されました。死魚は99.9%以上がメアジで、体長20cm以上の良型が大半でした。打ち上げ死魚が最も多かったのは湾奥部の前浜周辺でした。死亡個体は多くが腐敗し始めており、母島沖村の海岸―帯には強烈な腐臭が漂っていました。
 沖港の数力所で海水の測定をした結果、湾の奥部における海水の透明度は0.5mから1.5mほどでかなりの濁りが認められました。調査した沖港のほぼ全域で水温は港外よりも高温の27.0℃から29.2℃、溶存酸素は低い値の1.9ppmから5.8ppm、海水の塩分濃度は2.5%から2.8%、phは中性6.9から7.1を記録しました。
 当初、死亡原因としては、港内への薬物・毒物等の流入、海水中の溶存酸素量の低下、急性疾病の蔓延、大型捕食魚の追跡による浜への乗り上げ、有毒赤潮生物の大発生、微細な粒子状物質の大量流入、異常高水温(低水温)、荒天による浜への打ち上げ、大量の淡水の流入などが想定されました。原因の確実な究明にはより詳細な調査が必要ですが、今回の小笠原水産センターによる調査の結果、大量死に至った直接的原因としては、沖港内の海水の高温状態と海水中の溶存酸素量の低下、そして海中に拡散していた微粒子状物質がメアジの鰓に付着しガス交換能力を低下させたこと、などの複合効果による酸素欠乏の可能性が最も高いと考えられました。しかし、根本的な原因として、海水循環の悪い母島沖港の構造上の問題や土壌流出等周辺環境の悪化があることは否定できません。現状の沖港の環境が改善されず、今回と同様の悪条件が整えば、今後もメアジの大量死が起こる可能性があります。
 メアジは水産資源としては小笠原では現在のところあまり利用されていませんが、レジャーとしての釣りの対象魚としてとても人気のある魚です。また、このような大量死のビジュアル的インパクトは、雄大な自然を求めて母島を訪れた観光客に計り知れない負のイメージを植え付けてしまうことにもなります。今のところ産業上重要な資源ではないからどうでもよいという対応ではやがて大きな損失を招きかねません。今回のメアジの大量死については、必要以上に過剰に反応することはないと思いますが、メアジたちが小笠原の海に異変が起きつつあると警鐘を鳴らしてくれていると理解し、小笠原に住むひとりひとりに何ができるのかを真剣に考えるきっかけにしたいと思います。


図1 メアジの大量死(母島沖港)

図1 メアジの大量死(母島沖港)