第4巻第1号(通算30号) 東京都小笠原水産センター
2002年4月15日発行

エコツーリズム検討における課題

 小笠原を舞台に自然保護や産業振興に関する議論が繰り広げられています。東京都においても昨年11月「東京都観光産業振興プラン」を策定し、小笠原諸島を対象に「東京都版新たなエコツーリズム*1」の導入を提唱しました。紙面の都合から細かい内容は省きますが、基本的には、1. 世界的にも貴重な自然を保護   2. 新たな観光資源・産業の創出   3. 自然への理解と関心を高める の3点を柱とし24分野での事業展開を図ろうとしています。いずれにしても小笠原の地域特性を最大限に活用することにより、最終的には地域産業と融合した観光立島を目指すものです。
 小笠原支庁産業課関連の事業においても新たな視点での対応が求められています。例えば、小笠原水産センター等の試験研究機関には、大学や民間、NPO等との連携強化を図り、亜熱帯・海洋性自然環境の国際的な学術研究拠点づくりなどについて検討されています。
 総論としては理解できるものの、問題はそれをどう具体化するかです。エコツーリズムという概念を個別具体的な事業に移行していくためには、そのプロセスとして地域での合意形成が不可欠であるからです。しかしながら、現時点においては検討の主体である都(本庁)に対して、地域の認識が追いついていない状況にあります。その大きな原因として情報の不足と偏りがあげられるでしょう。正確な情報に基づき同じ土俵で議論できる場の設定が望まれます。
 幸い地元商工会等の民間団体レベルでは、TSL*2の就航に向け地域としての取り組みについて本格的に検討を開始しました。これまでにはなかったこのような動きはエコツーリズムを実現するうえで見逃してはならない地域からの兆しであると見たいものです。今後、小笠原村民の意識を改革し、こぞって村おこしを推進するためにも、この気運を大切にし、行政と民間とが一体となって建設的な議論のできる場が1日も早く設定されることを切に願ってやみません。


(本稿は前東京都総務局小笠原支庁産業課長より投稿いただきました)


*1:エコツーリズム=市民の環境保護への関心の高まりを背景に、旅行者が地域の生態系や生活・文化を損なわず自然地域を理解し楽しむことができるように、環境に配慮した施設と環境教育が提供され、地域の自然と文化の保護と地域経済に貢献できる旅行形態のこと。
*2:TSL=超高速船テクノスーパーライナーの略。平成17年初頭に就航する予定です。これにより、東京?小笠原間の航海時間は現在の25時間から16時間に大幅短縮されます。


小笠原の玄関口 父島二見湾

小笠原の玄関口 父島二見湾
手前の船は「おがさわら丸」