第3巻第10号(通算29号) 東京都小笠原水産センター
2002年3月20日発行

来てみて驚いた! 「新米無線通信士」徒然日記 第3話

 小笠原に来て何が一番驚いたかというと、月並みな答えであるかもしれないが、それは、海である。なにしろ、海がステキである。透明度がすこぶる良く、ガラスのコップに注いだサイダーのようである。小舟から水面を見下ろすと、色とりどりの鮮やかな魚たちが見えるのには驚いた。実際に素潜りしてみると、自由自在に泳ぐ彼らが羨ましく思えたものである。こんなに海が青くてステキであるということを一度知ってしまったら、誰もが虜になってしまうだろう。汚水処理場の放流水濁度も相当低いのだろうかと、つい古い職場のことを思い出してしまうのが悪い癖だ。東京区部の場合、降雨時には処理能力を超えた汚水が流入するので、第一沈殿池だけ処理して簡易放流してしまうため、河川や東京湾の水質が思い切り悪化するのだ。ここはどうなんだろう。
 前にも書いたが、筆者の職種は電気である。この職種は何でも屋にされてしまいがちな悲哀なものなのであることは、意外と知られていない。そもそも電気という性質は、物事を動かす原動力となる便利なエネルギーなのである。それ故、電気を扱う職業はすべからく電気をただ理解すればそれで良いというわけにはいかず、その電気によって受動的に動かされている機器類まで面倒を見なくてはならないのである。また、設置される構築物との連携、諸手続にまつわる事務など、ありとあらゆる方面に長けていないと役立たずとされてしまうのが常である。そして、世間様からはそれを上手に使われて、何でも屋にさせられて、重き荷を背負って遠き道を行くが如しなのである。
 無線の世界とはこれまで全く無縁であったわけではない。どんな場合でも、人が志向して進むべき道というものは、何かしらのヒントとなるきっかけがある筈である。それがたとえ大きな遠回りであったとしても、辿り着くための努力を知らず知らずの内に蓄積しているからであり、決して偶然では成し得ないものなのである。前置きが長くなったが、要するに無線と電気は繋がりが深いということだ。山の頂上で狼煙(のろし)を上げていた昔とは違い、今では電気が無くては通信ができないわけで、モーターとポンプの関係にも似て、両者は切っても切れぬ関係にある。筆者の子供時代は、なんとなく無線通信というものに淡い憧れを抱いておったのだが、職業とするまでには努力が足りなかったため、長いこと趣味の範囲に甘んじていた。仕事用には渡島直前に取得した最低の資格である「四海通」しか持たぬ筆者でも、おかげさまで、アマチュアでは一級(一アマ)を持っている。プロの世界ではとっくに廃止されたモールス通信を楽しんでいるといった風だ。
 格言の「継続は力なり」とはよく言ったもので、続けていたことが人の目に止まり、それが夢の小笠原へ来ることを実現する引き金になろうとは思いもしなかった。はっきり言って「ラッキー!」である。恩返しをするために、これまで培ってきた電気技術等を、この島でも役立てたいと思っている。(エラそうなことを書いたが、とりあえず終了なのである)


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