第3巻第4号(通算23号) 東京都小笠原水産センター
2001年8月15日発行

火山列島 硫黄島 でのアオウミガメ産卵調査

 今年も小笠原にアオウミガメが産卵に帰ってきました。広い太平洋の中にぽつんと浮かぶ小笠原によく迷わずたどり着けるものです。これら小笠原にやってくるアオウミガメはどのような生活史を持っているのでしょうか。
 これまでの調査から、卵からふ化した稚ガメはほとんど小笠原海域にとどまることなく、遠く伊豆諸島や本州沿岸域まで索餌回遊し、数十年後産卵のために再び小笠原諸島に帰ってくると考えられています。また、小笠原諸島は聟島列島、父島列島、母島列島、火山列島の4つの列島と、日本最東端の南鳥島(マーカス島)、最南端の沖ノ鳥島などの孤立島からなっていますが、産卵の中心は父島と母島列島で、その他に僅かながら聟島列島で産卵が行われています。ただし火山列島での産卵(戦前)や未成熟ガメの発見・捕獲(最近では水産センター1998年)、南鳥島での産卵(水産センター1973年)も記録されています。しかし、これら孤立島のほとんどは無人島であるためアオウミガメがどの程度来遊、産卵しているかは不明な点が多いのが現状です。今回火山列島の硫黄島でウミガメの産卵状況調査を実施しました。
 調査は2001年6月26日に行いました。硫黄島は太平洋戦争の激戦地で、現在は自衛隊の基地のひとつとなっています。その名のとおり島の西側からは硫黄のけむりが吹き出しており、風下に回ると強烈なにおいがしました。カメが上陸可能と考えられる砂浜は総延長約10kmありましたが、いずれの砂浜でもカメの足跡、産卵巣の跡は確認できませんでした。戦前に力メの産卵があったとされる海岸も島が隆起したためか、現在ではカメの上陸が困難な海岸となっていました。また、各海岸で波打ち際から約50mの地点の地温を測定したところ、表面温度は日中60℃以上にも達し、カメが穴を掘り産卵する地面から約60cmから70cmの層でも40℃から50℃と非常に高い温度を示しました。この温度ではカメが産卵したとしても卵は死んでしまうと考えられます。
 その他、調査をしていて感じたことは「各海岸とも流れ着いた空き瓶や洗剤容器などのゴミが多い」ということでした。海に捨てられたゴミは消えることなく、遠く太平洋の島々にも影響を与えているのだと改めて考えさせられました。


硫黄島西側の海岸

硫黄島西側の海岸:
戦争の爪痕(沈船群)が今なお残っている

調査海岸

調査海岸には
ボートから泳いで上陸しました


硫黄島の海岸に散乱していたゴミ

硫黄島の海岸に散乱していたゴミ