小笠原の天然記念物カサガイの研究報告1

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  小笠原諸島のみに生息するカサガイは、海産貝類では、我が国で唯一の天然記念物です。これまでの研究は分類(1993福田)や個体群の分布調査(1980桑沢)に限られ、その生態などについての十分な調査は行われていませんでした。2006年に引き続き、2008年まで文化庁の許可(18委庁財第4の2210号)を得て、本調査を首都大学東京矢崎先生と協同で実施しました。

成長は、早い?

 2月26日~12月12日まで父島の洲崎で、識別のため標識を付けた29個体の殻の長径を毎月ノギスで計測した結果、洲崎における平均成長速度は、1.81mm/30day(22mm/年)でした。
月別の成長量は、4月がピークでその後、小さくなり12月にはマイナスを示しました。この頃は、主産卵期とも重なるため、産卵により成長が鈍化したものと思われます。測定時に標識をつけた貝を発見できなかった場合は、死亡とみなしましたが、殻長が大きなものほど、生残日数が少ないことが分かりました。これまでの調査から、春から夏にかけて増えた個体数は、産卵期(または後)の12月になると急激にその数が、減少していることが分かりました。

カサガイの計測

写真1 カサガイの計測

 

2. はじめて分かった産卵の様子

 これまで、カサガイの産卵についてはあまりよく分かっていませんでしたが、今回センターでは、はじめて、水槽内で放卵する様子について観察することができました。
2008年12月18日午前8時30分と午前11時37分に、2個体のメスが放卵する姿を確認しました。なおオスの個体については、残念ながらその様子は確認できませんでした。8時30分の個体は、水面上約10cmの水槽の壁面において、輸卵管のようなものを体外に出し、その先端より放卵しました。要した時間は1~2秒、卵は、緑褐色をしており、海中では、すぐに分離し拡散しました。

図1:8時30分に腹足を伸ばして殻を持ち上げ、輸卵管のような管を延ばし先から勢いよく放卵した 

 図1 8時30分に腹足を伸ばして殻を持ち上げ、輸卵管のような管を延ばし先から勢いよく放卵した(図は、再現したイメージです)。

 

写真2 11時37分に生み出された卵(円内は水中の卵。この後水流により拡散)

写真2 11時37分に生み出された卵(円内は水中の卵。この後水流により拡散)

3.餌も、珍しい!

 通常、カサガイは岩の上の微細な藻類を餌にしています。東京海洋大学の鈴木秀和先生は、海上自衛隊父島分遣隊基地の護岸で採取した餌の珪藻には、珍しい種が含まれていたと報告しています。本種はHendey(1964)が英国Pembrokeshire Coast国立公園の岩礁域で採集し、新種としたもので、日本ではこれまで、山口県長門市仙崎と高知県室戸海洋深層水施設からの報告しかなく、詳細な構造は分かっていませんでした。今回初めて電子顕微鏡による詳しい観察が出来たそうです。食べている餌も、特別なようです。

 

写真3 餌となる珪藻

写真3 餌となる珪藻