第2巻第1号(通算10号) 東京都小笠原水産センター
2000年4月15日発行

小笠原の小さな水族館

 小笠原諸島は「海洋島」で、過去に一度も大陸とは陸続きになったことがありません。また、亜熱帯に属していることから水陸ともに本州とは異なる特殊な生態系が形成され、小笠原固有種もたくさん生息しています。こうした貴重で豊かな自然を求めて多くの人々が小笠原を訪れますが、当センターの中にも隠れた名所が存在します。
 まず、門をくぐってすぐ右に六角形をした池があります。ここには毎夏、小笠原の浜辺に産卵にやって来るアオウミガメの子供が飼育されています。ふ化したばかりの子亀は10cm程度ですが、毎日餌を与えているため3歳にもなると甲羅の長さが約45cm、体重は15kg以上にもなります。さらに中に進むと三角屋根が特徴の白い建物が見えます。この中は小さな水族館となっていて、観光客や地元の人たちの憩いの場所となっています。


水槽の中でアオリイカが産卵!

 水族館の中には悠々と泳ぐカンパチやシマアジ、ガラパゴスザメ、大きなカノコイセエビ、珊期礁にすむ小さな魚や当センターで種苗生産したアカハタなどが展示されています。中でも人気が高いのがアオリイカの水槽です。
 飼育は昨年の8月に当センター脇の岸壁で採集された26尾のアオリイカから始まりました。採集時の大きさは3cmから5cmで、ふ化から1から2ヶ月の個体と思われます。アオリイカは活きた餌にしか興味を示さず、餌の採集には苦労しました。よく食べたのはムギイワシやミズン、ボラでした。苦労のかいあって12月には外套長(足と頭の部分を除いた長さ)が20cmを越える23尾の大きなアオリイカが水槽の中をひらひらと漂う美しい姿を見ることができました。また同時に交尾行動が見られ、翌1月には産卵が始まりました。最初は産卵基盤が水槽の中になく、なんと一緒に飼育していたカノコイセエビの触角に卵嚢を産み付けました。(アオリイカは卵嚢と呼ばれる数個の卵が詰まった鞘状の白い房を数回に分けて海藻やサンゴなどに産み付けます)その後、産卵床を入れるとそちらに産卵し始めました。約1ヶ月ほどの間オスとメスがペアになって産卵するのが観察されました。3月初旬には産卵で力を使い果たしたのか飼育していた全ての個体が死亡してしまいました。
 卵嚢が産み付けられて約1ヶ月後には卵の中から目が見え始め、体の色を変化させているのが確認できました。その10日後にはふ化が始まり、水槽の中は小さなアオリイカでいっぱいとなりました。これらのほとんどは放流しましたが、数匹を再び大きくし、来年も水槽の中での産卵がみられるように飼育していく予定です。
 小笠原を訪れた際には一度は水産センターの小さな水族館をのぞいてみてください。


図1 水槽内で育つアオリイカ

図1 水槽内で育つアオリイカ

図2 産卵するアオリイカと産み付けられた卵のう

図2 産卵するアオリイカと産み付けられた卵のう