第2巻第5号(通算14号) 東京都小笠原水産センター
2000年8月31日発行

ぼたんえび類の生息を確認

父島から母島間水域他に有望な新資源

 小笠原水産センターでは、所属の調査船「興洋」(46トン)を用いて、深海水産資源調査を継続実施しています。平成11年度からは深度を800m以深まで拡大して調査を行ってきましたが、一連の調査で有用なエビ類資源、ぼたんえび類の生息を小笠原諸島の父島から母島間海域ほか数地点で確認しました。調査で採集された主要なエビは、標準和名をマルゴシミノエビ(図1)といいます。このタイプのエビの中では大型になるエビの一種です。国内市場では、このエビや近縁ないくつかのエビをまとめて「ぼたんえび」の銘柄で流通しているようです。生食で肉だけでなくミソもたいへん美味しいうえに、加熱しなくても鮮やかな赤色をしており、身のつまりもよいことから高級食材として将来の活用が大いに期待できます。
 近年の小笠原諸島では、地元の若い漁業者の熱意で急速に多様な漁業が展開されてきていますが、非魚類資源については、沿岸浅海域のイセエビ類やアサヒガニなど数種の甲殻類や深海域のソデイカなどの軟体類が漁獲される程度で、まだまだ未開発の資源が多く残されています。
 特定の水産資源を集中して漁獲し、資源をつぶしてしまうことのないように適切な漁獲が実行されることは、長続きする漁業には必要な条件です。しかし、理想的な漁業を語るときによくいわれる資源管理は、現場での実際の施策として漁獲量や漁場利用を規制する漁獲制限を主要な手段として位置付けていることが多く、つまりは漁業者の営為をいかに管理するかということに集約されます。十分に漁があり、各漁業者に余裕があるときであれば、漁獲制限は受け入れられるでしょうが、「10年後にいくら漁獲が増えますよと言われても、それまで霞を食べて暮らしていくわけにもいかない」という漁業者の意見はもっともなことです。いかに資源管理計画が正しく有効であるのかを証明したり(あるいは限界を明らかにしたり)、啓蒙したりすることも、水産行政や水産研究機関の大切な仕事のひとつですが、同時に求められるのは、具体的な代替漁業の提示と新たな可能性のビジョンを示すことだろうと思います。まっとうな漁業を続けようとしている人々の努力を徒労に終わらせないことは、21世紀も健全な漁業を維持していくうえで大切なことです。
 今回の新資源開発を目的とした深海水産資源調査は、将来の小笠原諸島の漁業を見据えたときの、漁業種の多種化と漁獲圧力の分散化を進める計画の一方策として実施されました。すぐに新しい漁業が展開できる速効性はなくとも、未来の可能性はさらに広がりました。今後も明日の漁業を考えつつ、十年、二十年先の漁業をも視野にいれて調査研究を進めていきたいと思います。


図1 採集されたマルゴシミノエビ

図1 採集されたマルゴシミノエビ