第3巻第3号(通算22号) 東京都小笠原水産センター
2001年7月18日発行

塩水氷・海水氷 水産物の鮮度保持という問題

 水産食品としての魚は種類によって値段が変わります。とれた季節や大きさによっても変わります。脂のノリ具合によっても変わります。そして、鮮度によっても大きく変わります。漁獲物は多くの場合が生鮮食料品であるため、漁獲後に魚体の鮮度保持をどうするかという問題は避けて通れません。せっかく良い魚を良い時期に良い状態で漁獲しても鮮度の低下で価格が下がってしまうことがあるのです。
 食品分析などの分野では、一般に魚の鮮度を測る目安としてK値という指標が使われます。K値が高ければ鮮度が低下していると判断されます。K値は時間とともに増加し、低温よりも高温の条件で増加のスピードが速くなります。魚体の鮮度保持にはいかに速やかに低温状態に保つかが重要になるわけです。
 多くの漁船では、このために漁獲後の魚を海水と氷を混ぜた「水氷(みずごおり)」中に入れます。この方法は、急速に魚体の温度を下げることができ、冷蔵機器類の装備がなくてもよく、簡便でもあるため、小規模な漁船漁業ではとても有効な方法といえます。しかし、淡水でつくった氷の溶解が進むにつれて塩分濃度が低下していき、ある程度の時間以上の保管では魚体をふやけさせてしまうことがあります。こうなると魚価は下がってしまいます。周囲の環境の温度が0℃以上であれば氷が溶けるのは仕方のないことですが、氷がある程度溶けても水氷の塩分濃度を下げないようにするためには、使用する氷を海水に近い塩分濃度の塩水か海水でつくればよいという考え方もできます。そこで注目されるのが、塩水氷や海水氷を製造できる製氷装置です。塩水氷や海水氷の有効性は認められつつも、従来はその製造技術や設備等のコスト面で問題がありました。しかし、長崎県などで試験実施や漁協等の設備として実用化されているように(図1)、それらの問題点は克服されつつあります。
 2000年より小笠原村では、最近注目を集めている深海域の海水、いわゆる「海洋深層水」の利用を村の総合的な将来構想のなかに位置付けて、各方面での利活用を検討しています(*)。後発の開発となる海洋深層水の事業化には十分な事前調査が必要と思いますが、海洋深層水の清浄性や低温性という特徴は海水氷製造には好適かもしれませんし、海洋深層水氷で箱詰めされた魚は話題性が高いでしょう。
 小笠原水産センターでは、現状では残念ながら設備面等の関係で鮮度判定や品質保持に関する各種試験を行うことはできませんが、都の諸機関の協力を仰ぎながら情報の収集に努めたいと考えています。漁業者の皆さんからのご意見などありましたら、ぜひお寄せください。


*: 現在では海洋深層水から海洋表層水に重点を移して活用を検討しているようです。


図1 長崎魚市場内に設置された塩水氷製造装置

図1 長崎魚市場内に設置された塩水氷製造装置