ハマトビウオ


標準和名

ハマトビウオ

学名

Cypselurus pinnatibarbatus japonicus (Franz)

地方名

ハルトビ(伊豆諸島)、カクトビ(伊豆諸島、種子島)、オオトビ(宮崎)

分類

ダツ目、トビウオ科、ハマトビウオ属

形態

体は紡錘形で細長い。腹面下端は狭く、体中央部の横断面は逆三角形に近い。背ビレは一基で体の後方にある。胸ビレと腹ビレが大きく、特に胸ビレは尾柄近くまで達する。尾ビレは上葉よりも下葉が長い。ウロコは大きく剥がれやすい。背部は濃青色で、腹部は白色。胸ビレの鰭膜はほぼ透明。側線は体側の下部を走る。体長50cmに達する。。

分布

東北地方から奄美諸島までの太平洋岸、伊豆・小笠原諸島に分布する。ただし小笠原諸島では非常にまれ。カリフォルニア州周辺の北米太平洋岸、南米チリ沿岸、ニュージーランド周辺の南太平洋、インド洋にも別亜種が分布し、日本沿岸の個体群とあわせて世界中に5亜種があるとされている。

生態

世界に約45種いるというトビウオ類の中で最も大型になる。また、元来熱帯~温帯に分布するトビウオ類の中で、最も低水温域に生息する魚種である。産卵期は南九州で12月から1月、伊豆諸島で3月から4月。卵の直径は約2mmで、表面に細い糸が50本から80本ほど生えている。水温20℃で受精後2週間ほどでふ化する。ふ化仔魚の体長は約5mm。ふ化後20日ほどで体長15mmに達し、下顎に一本のヒゲを生じる。体長25mmに達する頃からヒゲはフリル状に変化する。体長30mm頃から水面上にジャンプするようになる。八丈島で標識放流した個体が屋久島で採集されたことがある。 東京都の海域には、最大でも体長15cm程度のツマリトビウオ Parexocoetus branchypterus branchypterus (Richardson) から体長50cmのハマトビウオまで20種以上のトビウオ類が生息し、体色や胸ビレの色彩・斑紋などによって区別されている。ハマトビウオのほかに、トビウオ Cypselurus agoo agoo  (Temminck and Schlegel)、オオメナツトビ Cypselurus antoncichi  (Woods and Schultz) 、オオアカトビ Cypselurus stuttoni  (Whitley and Colefax) などがいわゆる“夏トビ”として漁獲されている。

資源の利用と保全

伊豆諸島におけるハマトビウオは、春季に産卵のため大量に来遊し、主として刺網により漁獲される。このため“春トビ”の名前がある。かつては年間数百万匹も漁獲されたが、1980年代後半から不漁に陥り、1990年には漁獲ゼロとなった。このため水産試験場では様々な調査を実施して資源量の推定を行った。また、これをもとに水産関係者の努力で総許容漁獲量(TAC)規制が行われ、近年は漁獲量が数十万匹台まで回復している。今後も資源の適正な管理が必要である。 本種は“くさや干物”の原料として需要が高い。

調理法

身は淡泊な白味で、刺身、酢じめ、塩焼き、ムニエル、さつまあげなど何の料理にも適する。
ツマリトビウオ
ツマリトビウオ
表面に長い糸を持つトビウオの卵
表面に長い糸を持つトビウオの卵

飛行のための大きな胸ビレをもつトビウオ類
飛行のための大きな胸ビレをもつトビウオ類