イセエビ


標準和名

イセエビ

学名

Panulirus japonicus (Von Siebold)

分類

十脚目、イセエビ科、イセエビ属

形態

通常体長(両目付け根の間の甲縁から尾端)30cm、体重1kg以下で体重1kgをこえるものはまれである。触角板(目の前方、触角付け根の甲板)の前方に一対の大きい棘があり、その後方には小棘がまれに2対から3対みられる。体色は赤褐色で甲背面に目立った模様はない。

分布

茨城から台湾・中国に分布するが沖縄にはみられず、分布の中心は本州、四国、九州沿岸である。東京の海域では、伊豆諸島全域に生息するが、南部ほど少ない。小笠原には通常分布しないが、極めて希に混獲される(過去30年で2尾)。

伊豆・小笠原諸島にはイセエビのほか、カノコイセエビ Panulirus longipes  (A. Milne Edwards) 、シマイセエビ Panulirus penicillatus  (Olivier) 、ケブカイセエビ Panulirus homarus  (Linnaeus) 、ゴシキエビ Panulirus versicolor (Latreille) 、ニシキエビ Panulirus ornatus (Fabricius) が分布し、後3者はいずれの海域でもまれであるが、カノコイセエビとシマイセエビは南方の島で生息量が多い。

八丈島における1961年から65年の調査では、イセエビ、カノコイセエビ、シマイセエビの比率はほぼ8対1対1とされたが、近年の漁獲物をみるとほとんどがイセエビである。小笠原父島では1970年頃にはカノコイセエビとシマイセエビの比率は83対16であったが、漁法が潜水鈎取漁から篭漁業に替わったこともあり、近年は漁獲物の大半がカノコイセエビである。小笠原に分布するカノコイセエビは第1触角(短い髭)に白い帯がないことなどから、別種(アカイセエビ)であるとする説が提唱されている。アカイセエビは八丈島にも分布し、シラヒゲ型との比率は詳細には調査されていないが大きな偏りはみられない。小笠原では圧倒的にアカイセエビが多い。

生態

昼間は岩礁の窪みや割れ目、洞窟の中などにひそみ、触角だけを外側に出している。餌が直前にくれば昼間でも隠れ家から出るが、通常は夜間窪みから出て索餌する。貝やカニ類、ウニなどを食べる。成長は地域によって異なるが、南伊豆では着定後2年で130gから150g、4年で290gから330gに達する。産卵期は春から夏。水槽中の観察では、雌は壁に向かって垂直の姿勢をとり、腹部を曲げ、腹肢を両側に立て内側の空間に産卵する。卵は腹肢に房のように付着し、約40日でふ化する。イセエビ類のふ化幼生はフィロゾーマと呼ばれ、透明で紙のように薄く、うちわに手足を付けたような奇妙な形をしている。フィロゾーマはふ化後脱皮成長を重ね、形も少しずつ変わり、約300日で体長3cmほどに達しプエルルス幼生へ変態する。プエルルス幼生は稚エビによく似ているが、腹肢が発達し遊泳することができ、沖合から沿岸に回帰するための成長段階と考えられる。沿岸にたどり着いたプエルルス幼生は海藻の葉間、岩礁の小さな窪み、海底の砂小石の間などに着定し稚エビに変態する。

資源の利用と保全

イセエビは主として刺網で漁獲され、漁獲量は他魚種に比べて比較的安定している。地区により、産卵期の禁漁、混獲される稚エビの放流、漁獲量の制限、網数制限などの資源保護策がとられている。造礁サンゴの多い南方では潜水による鈎取漁法、篭が用いられる。

調理法

数ある水産物の中でも、とくに高級食材のひとつである。死後は自己消化が早く進むので、活エビでの流通が主体である。刺身、鬼殻焼き、味噌汁などの和風料理のほか、フライやグラタンなどの洋風料理にも用いられる。

フィロゾーマ
フィロゾーマ


ゴシキエビ
ゴシキエビ