平成12年12月15日 東京都水産試験場 大島分場

最近の大島におけるサザエ(Batillus cornutus)の産卵と成長


 当分場では、数年前より大島でのサザエの産卵期と成熟最小形、および成長について調査してきました。今回はこの調査結果を基に、資源管理の基礎となる禁漁期と漁獲制限殻高について再検討しましたので、更に一歩、自主管理を進めるための参考としていただければ幸いです。


(1)産卵期の検証と性比

 大島南部の漁場(水深10m前後)で毎月一回程度の間隔でサザエを採集し、殻を割って生殖腺部分の組織標本を作製し(図1)、雌雄を確認して生殖腺の発達(肥大)程度を示す生殖腺熟度指数(GI)を調べました。一回の調査には殻高75mm以上のサザエ成貝15から20個体を使用しましたが、平成9年4月から平成12年11月までの調査総個体数は861個体で(このうち雄が420個体、雌が441個体で雌雄比はほぼ比1:1となりました。GIはいずれの年も4月頃から急激に増加しはじめ、7月上旬頃にピークがあって7月中、下旬から10月頃にかけて大きく減少し、更に12月頃まで減少が続いていました(図2)。サザエはこの産卵期に同じ個体が何回かに分けて産卵するようです。GIの減少は産卵によって卵や精子が放出されたことによるもので、この減少期が産卵期に当たりますが、生殖腺の組織標本を観察すると10月にはすでに卵は消失していますので、大島でのサザエの産卵期は7月から9月頃と推定され、東京都漁業調整規則による禁漁期(7、8月)はほぼ産卵期と一致します。


図1 サザエの生殖腺

図1 サザエの生殖腺


図2 伊豆大島におけるサザエ成貝の生殖腺熟度指数

図2 伊豆大島におけるサザエ成貝の生殖腺熟度指数
(G1)の季節変化 (◆=雄、○=雌)


(2)成長

 人工種苗の飼育結果、放流した種苗の成長、および漁場で採集したサザエの殻高組成(図3)などから、大島のサザエは1歳で殻高2cm前後、2歳で平均殻高4.2cm(平均体重19.1g)、3歳で平均殻高6.7cm(平均体重74.2g)、4歳で平均殻高7.9cm(平均体重119.8g)、5歳で平均殻高9.8cm(平均体重224.0g)、6歳以上で平均殻高11.0cm(平均体重313.3g)以上になるものと推定されます(図3)。


図3 天然サザエの年級群組成

図3 天然サザエの年級群組成
(1998年8月24日、大島、差木地禁漁区)


(3)成熟最小形と漁獲制限殻高

 サザエの成熟最小形(産卵が始まる大きさ)を調べるため、生殖腺熟度指数(GI)のピーク時(産卵期直前)にサザエの大きさ(殻高)とGIの関係を調べたところ殻高5cm未満のサザエはほとんど成熟しないことが分かりました(図4)。
 この大きさは産卵期から起算して2歳と3歳の群の境界付近に当たり(図3)、大島のサザエの大部分は3歳から産卵が始まると推定されます。
 漁業調整規則による5cmの漁獲制限殻高(殻長)は成熟最小型とほぼ一致しますが、前述のように、産卵が始まるのは3歳からと推定されますので、すべての個体に最低1回は産卵させるとすれば、3歳群と4歳群の境界(殻高7.5cm、体重約100g)程度の大きさまでの貝を保護する必要があります。
 また、殻高5cm(体重約32g)のサザエは翌年には殻高7から8cm(体重約85から125g)になりますが、体重は3、4倍に増加しますので、この間を保護できれば更に効率のよい資源管理が可能となるでしよう(図5)。
 成長や成熟は水温や餌料環境などによって変化することが予想されます。今後は他島でも同様の調査を行って各島毎の特性を明らかにしていきたいと考えます。
(担当:栽培漁業科)


図4 殻高と生殖腺熟度指数の関係 (◆=♂、●=♀)

図4 殻高と生殖腺熟度指数の関係 (◆=♂、●=♀)

図5 伊豆大島におけるサザエの成長

図5 伊豆大島におけるサザエの成長


「分場だより」の20世紀を振り返って


プランクトン調査(みやこ)

鳥島海域底釣調査(みやこ)
H12年10月鳥島沖

鳥島海域底釣調査(みやこ)

プランクトン調査(みやこ)
H12年10月鳥島沖

波浮港から見た東京都水産試験場大島分場庁舎

波浮港から見た
東京都水産試験場大島分場庁舎

漁業調査指導船みやこ(136t)

漁業調査指導船
みやこ(136t)
S62年建造


年が明ければ21世紀が始まります。東京都水産試験場大島分場では、昭和25年2月1日に「水産情報」を発刊しました。この時のトップ記事は「大室出しにおける寒棒受網漁業」でした(通刊72号)。以降、昭和29年からは「大島分場ニュース」(通刊254号)、昭和41年から現在の「大島分場だより」(通刊284号)になりました。昭和から平成に至る半世紀の間、伊豆諸島の水産情報を皆様にお届けしたことになります。今年、伊豆諸島は今世紀でも未曾有の噴火・地震災害に見舞われていますが、これに挫けることなく来年が皆様にとって良い年となるよう祈念いたします。また、「分場だより」は一層の充実を図るため、今後も、分場職員一同努力するつもりですので引き続きご愛読のほどお願い申し上げます。
(分場長 村井 衛)


漁業調査指導船やしお(43t)

漁業調査指導船
やしお(43t)
H7年建造

漁業調査指導船かもめ(3.9t)

漁業調査指導船
かもめ(3.9t)
S57年建造