テングサ藻場再生・保全対策最前線(大島編2009)
スポアバッグと板石の投入でテングサの着生を確認、次の展開へ


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 島しょ農林水産総合センターでは、大島事業所トピックNo.326 でお知らせしたとおり、平成20年度から3年間の計画で、大島、三宅島、八丈島においてテングサ藻場を再生・保全するための研究に取り組んでいます。今回、大島における平成20年度1年間の取組結果について取りまとめ、その概要を報告します。

チェーン振りによる雑海藻除去の効果は、

 島の北西側の海域で、チェーン振り法による雑海藻除去とスポアバッグ法によるテングサ(マクサGelidium elegans)の胞子添加の試験を実施しました(大島事業所トピックNo. 326参照)。残念ながら、その後の観察結果では、3ヶ月後には概ね元の植生(石灰藻やシマオオギが中心)に戻ってしまったのが現状です(写真1)。 

写真1

写真1 チェーンを挟んで左が試験区で右が対照区
試験区の植生は、概ね元に戻る(2009年3月24日)

新しい着底基質としての板石の効果は、 

 一方、試験区に隣接する場所では、離島再生支援事業としてマクサのスポアバッグを実施しております。ここでは、板石(U字溝の蓋)の投入を行いました(写真2)。これは、雑海藻の要因を排除して、テングサの着生状況を純粋に観察することを狙ったものですが、その板石には、マクサが着生し、数㎝にまで生長する様子が観察されました(写真3)。本海域におけるこれらの取組みからは、胞子の供給があり、かつ新しい基質があれば、この海域でも、マクサが生えるということがわかりました。

写真2

写真2 海底に設置された板石。設置直後のため海藻類は一切着生していない。

 

写真3

写真3 板石に着生したマクサ

 

胞子着底の促進と雑海藻対策が今後の課題

 チェーン振り法で除去されるのは、主に海藻の直立部になりますが、その付着部は残ります。付着部から芽吹いてきた時点で、再度、直立部を除去するなどの対策が必要であると考えられます。また、石灰藻中心の植生に戻るにつれて、海底には砂が堆積する様子がみられました。一部の海藻では、砂の堆積が胞子の着底を阻害することが知られています。今後、精査しなければなりませんが、胞子の着底を促進させる上で、この点も課題の一つと考えられ、このことも念頭に置いて試験を行っていく予定です。
  最後に、今回、板石にはマクサが着生しましたが、最終的には雑海藻類に優占されてしまう可能性があります。着生したマクサの動向については、投石事業などの分野で、知見が役立つ可能性があります。引き続き、観察を続けていく予定です。