荒川におけるヤマトシジミの生息域

   ヤマトシジミは、淡水と海水が混じりあう河川下流の感潮域や汽水湖に生息しており、本種にとって塩分が高くもなく低くもない固有の環境を必要とします。しかし、一口に固有の環境といっても、ヤマトシジミが生息する河川下流の汽水域は潮汐による干満の影響や出水、さらに同一場所でも浅場と深場によって塩分は大きく違ってくるため、適正場所は本種に聞く(=生息状況を調べる)しかありません。では、東京を代表する荒川では、ヤマトシジミが河口からどの程度上流までどのように生息しているのでしょうか?

 実際にシジミ漁を行う漁業者は、JRの総武快速線が荒川を横切る鉄橋より200~300m上流の平井大橋付近までの範囲で操業しますから、ここまでが採算が合うほど生息密度が高い場所といえます。それより上流の生息状況は、平成25年10月28日と30日の水質・底質調査の際に別途採取した泥中のヤマトシジミの個体数を使用しました。

 その結果、総武快速線鉄橋より1.5㎞ほど下流の小松川橋付近の個体数は同鉄橋の約3倍であるのに対し、同鉄橋より4㎞ほど上流の京成本線堀切橋は記録程度と極めて少ないうえ、それまでの総武快速線下や小松川橋付近が干潟など浅場まで生息するのとは違って、塩分の影響が及びやすい流心(深場)だけでの採集でした(図1)。なお、満潮時近くの水質測定から、河口より上流20㎞ほどの環状7号線・鹿浜橋まで塩分が侵入していることがわかりました(図2)。

 

図1

図1 ヤマトシジミの地点別・採集数(左が上流、右が下流)

 

図2

図2 満潮時における塩分断面分布 

注)調査は下弦の月から1~3日後に実施し、基準潮位は140~155㎝。図左端の凡例は塩分濃度を表す。

                        

 

平成26年3月19日 内湾水質調査結果   

    St.1 羽田洲 St.2 羽田沖 St.3 15号地 St.4 三枚洲 St.5 お台場
調査開始時刻 10:37 11:13 9:48 9:27 11:48
調査終了時刻 10:51 11:28 10:04 9:43 12:02
底曳開始緯度 N35 31 54.1 N35 33 26.1 N35 36 45.4 N35 37 18.8 N35 37 45.1
底曳開始経度 E139 47 35.9 E139 47 48.1 E139 50 15.5 E139 51 24.9 E139 46 13.7
底曳終了緯度 N35 31 53.5 N35 33 25.2 N35 36 46.0 N35 37 19.6 N35 37 44.1
底曳終了経度 E139 47 37.2 E139 47 49.0 E139 50 16.7 E139 51 26.0 E139 46 13.0
曳網距離(m) 37±3 36±3 36±3 34±3 36±3
天候
風向 ESE E E ENE E
風速(m/sec) 4.2 2.9 4.6 4.6 0.8
風力 3 2 3 3 1
気温(℃) 11.2 11.2 10.9 10.9 13.1
実測水深(m) 4.9 6.4 5.8 4.4 3.5
透明度(m) 2.5 2.2 1.5 1.6 1.8
水色 10GY3/4      暗緑色 5GY3/3       暗灰黄緑色 5GY3/3       暗灰黄緑色 5GY3/3       暗灰黄緑色 5GY3/3       暗灰黄緑色
水温(℃) 表層(0.5m) 11.54 11.98 11.56 11.37 13.11
底層 (B-1m) 11.43 11.93 11.26 11.22 12.39
塩分 表層(0.5m) 29.6 29.6 28.2 27.2 26.3
底層 (B-1m) 30.7 29.9 30.3 30.9 29.0
DO(mg/l) 表層(0.5m) 8.14 10.72 10.03 10.03 13.79
底層 (B-1m) 9.16 10.44 9.65 9.47 10.46
DO(%) 表層(0.5m) 90.1 119.9 110.1 109.0 154.7
底層 (B-1m) 101.9 116.8 106.7 104.9 117.5
pH 表層(0.5m) 8.13 8.33 8.30 8.30 8.46
底層 (B-1m) 8.24 8.31 8.31 8.31 8.28
濁度 表層(0.5m) 3.4 2.1 6.2 5.1 2.7
底層 (B-1m) 2.2 1.8 4.2 3.6 2.3
電導度(mS/cm) 表層(0.5m) 34.0 34.4 32.6 31.4 31.8
底層 (B-1m) 35.1 34.7 34.5 35.1 34.1

 

 

 調査側点図

 調査側点図