83-1.小笠原諸島水産開発基礎調査報告
小笠原諸島水産業の発展経過と資源の動向(予察)

倉田・広瀬

 返還された小笠原諸島の戦前までの資料をもとに水産業の発展経過をまとめた。主要な島は26余で、50m以浅の漁場は133k㎡、200m以浅の陸棚は1967k㎡である。
 小笠原の漁業は明治20年代から30年代に入って本格化し、各種の漁業が営まれると共に加工業も盛んになり、漁家100戸、漁船数150隻に達した。大正時代には官民の努力により漁獲高も増加した。沖縄の漁業者の移住とサンゴの新漁場の発見、捕鯨の大資本の進出が特記される。昭和に入りサンゴブームは去り、漁獲高は減少したが安定状態が続いた。
 東京府は水産開発のため明治39年より水産経営事業を開始した。主な事業は海洋観測・生物調査等の基本調査、漁場探索・漁具漁法の改良等の漁業試験、カメ・魚類の養殖・移殖等の養殖試験、各種の製造試験及び前記の各種の指導奨励事業が行われた。
 漁獲量の経年変動は5期に分けられる。第1期(明39~45)始業期、第2期(大2~8)上昇期、第3期(大9~15)最盛期、第4期(昭2~8)下降期、第5期(昭9~16)漸増期。
 資源の動向を予測すると、回遊性魚類はカツオ・マグロの期待は薄く、サワラは期待できる。磯根性魚類ではトビウオ・アジが期待できる。魚種別漁期・漁具・漁法を記した。

83-2.小笠原諸島水産開発基礎調査報告書
磯根資源調査報告概要

塩屋**・倉田***・三村*・広瀬**・高橋**

〔昭和43年度*〕6~7月父島列島周辺の潮干帯より水深20m付近まで磯根の現況を調べた。
 海底地形はおおむね急崖かそのまま海中に落ちこみ、海底も急傾斜で漸深帯の占める面積は少ない。造礁サンゴが優占し、海藻の分布は極めて貧相である。水産動物はコーラルフィシュとイセエビ類が主である。魚類を除き磯根資源の生産力は大きいとは認めがたい。
 有用水産動植物として魚類・甲殻類・貝類・水産動物(造礁サンゴ・アオウミガメ・藻類)について現況を記した。有用生物の存在は戦後漁獲努力が少なかったことによるものが大で、今後
の保護対策と増殖対策が必要である。
〔昭和44年度**〕6~7月父島列島・母島列島・聟島列島の各一部及び西の島・火山列島の海域を調査した。
 魚類はテンジクイサキが優占し、珊瑚礁間ではハタ科魚類が多く、その他多種の珊瑚礁魚に占められている。カツオ漁業餌料魚として4種類をとくに調査した。
 この他アオウミガメ・軟体動物・造礁サンゴ・藻類・甲殻類等の現況を記し、繁殖保護上緊急を要する問題点3点を提起した。

 

83-3.小笠原諸島水産開発基礎調査報告
軟体動物相とその増殖問題

倉田・西村・塩屋・三村

 小笠原諸島の軟体動物は今回収録したのは過去の資料を含めて359種で、ヒザラガイ類7種、腹足類290種、斧足類56種、頭足類6種でこれらを目録した。
 貝類についてはタカラガイ・イモガイ類で伊豆諸島等と比較して形態的に特徴的なものが数種みられる。伊豆諸島とは概して共通種が多い。軟体動物の利用は食用と装飾・鑑賞用となり、食用では貝類10種、頭足類2種があげられる。装飾・観賞用貝類では10種がある。
 今後の増殖対策について、貝類は食用よりも観賞用等が多いのでこれを主体に考えるべきであって、当面保護し、種苗生産可能なものについて積極的増殖を講ずるべきである。真珠母貝の養殖については、クロチョウガイ・シロチョウガイ・マペ等を将来の目標とすべきである。
 戦前の貝類の研究小史、軟体動物の方言を付記した。

 

83-4.小笠原諸島水産開発基礎調査報告
小笠原諸島珊瑚礁概観

倉田・三村・高橋・塩屋・広瀬

 1968~1969年の夏期、主として潜水によって造礁サンゴ類の分布状況を聟島列島から火山列島の水深30mまで調査した。
 聟島・父島・母島列島の石サンゴ類の分布は種・量共に多い礁を形成している場所は、主として列島の西及び南側にあり、北と東側は少ないという共通性がみられる。
 父島列島二見湾は湾奥部水深5~15mに礁湖型の樹枝状サンゴ礁が発達し、湾口に進むに従って貧相となる。南島袋港・ひょうたん島・人丸島・滝の浦湾・兄島瀬戸の両側・宮の浜・初寝浦は各種のサンゴがよく発達している。母島列島では沖港より御幸浜・南京浜・南崎の南浜・平島の北西部の7kmにわたり最大のサンゴ帯がみられる。以上の分布は地形が大きく影響していると考えられる。2カ年の調査で93種を明らかにし、造礁サンゴ類の目録を作成した。
 サンゴ類を測定し、主要なものにつき1年後の成長を調査した。また造礁サンゴの分布について各列島及び主要な島別に詳述した。造礁サンゴの保護対策として、漁業権の対象物にすること・採取禁止区域の設定・害敵生物の駆除・生物学的調査の充実等が考えられる。


83-5.小笠原諸島水産開発基礎調査報告
アオウミガメの増殖経過と実績

倉田・広瀬

 小笠原諸島のアオウミガメは食糧として貴重である。従って増殖対策、資源保護を講じる必要があり、資料によって人工ふ化放流の経過と実績を整理し、今後に資した。
 1670年(寛文10年)漂流民により産卵のため上陸したカメの捕獲に始まり、1830年欧米人の定住以後は食糧として捕獲され、明治初年の3000頭を最高に以後漁獲数は減少し、1906年以降1936年まで平均219頭/年となった。その間、各種の漁獲制限による保護が行われると共に1910年より人工ふ化飼育、翌年放流が行われ、1940年まで続けられた。以上の経過を系列的に表とした。人工ふ化放流の数、標識放流の方法、採捕事例等を記すと共に生活史(回遊・回帰・成長・二次性徴・寿命)について知見を記した。
 増殖上の問題点として、産卵場の整備、人工ふ化放流事業の再開、標識放流の改善、取締規則海域の拡大等が挙げられる。

 

83-6.小笠原諸島水産開発基礎調査報告
カツオ餌料イワシ蓄養試験

今井・佐藤

 内地カツオ船に活餌イワシを補給し、中継基地としての利用度を高めるため、父島二見港内で蓄養試験を行った。
 6月千葉県館山で購入したカタクチイワシ20杯を「あずま」の活魚艙に入れ輸送した。試験結果から死亡率20%以下におさえることは困難で、輸送費、蓄養に要する餌料、人件費等を考慮して内地活餌イワシの輸送販売事業は成立しないと結論した。

 

83-7.小笠原諸島水産開発基礎調査報告
漁業の概況および今後の漁船漁業について

今井

 漁業の現状は1968年に帰島した旧島民58名と現地漁民14名が漁協を結成し、運搬船2隻(73.97トン)と小型船5~6隻(2~3トン)で底魚一本釣・ムロアジ棒受網、磯魚建切網・トビウオ流刺網漁業に従事した。その後諸事`情により1969年には従事者は旧島33名、現地漁民2名となった。各種漁業について考察すると、底魚一本釣では操業方法、漁具に改良点を認めた。棒受網では漁獲物の処理、トビウオ流刺網では能率化等の改良が必要である。マグロ延縄は立地条件を有効に生せば好成績も予測でき、カツオの一本釣と曳縄は現地加工をすれば有望と考える。

研究要報83(1969.8)

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